護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
受け取ったのはいいけれど、エリアナは戸惑ってしまった。ナイフやフォークもなく、どうやって食べたらいいのかわからない。
しかも初めての肉なのだ。
周りの様子をうかがうと、みんな豪快にかぶりついている。
エリアナも程よく焼き色がついたそれに、「えいっ」とばかりにかぶりつく。と、見た目よりも柔らかくジューシーで、素朴な塩味が肉の甘みを引き立てていた。
「……おいしい」
頬が落ちてしまう気がして、あわてて手のひらで片頬を覆う。
こんなにおいしいなんて。
エリアナの食事はいつも、パンと少しの野菜とスープのみだったのだ。聖なる力を維持するためにも清貧でなければならないと厳しく言われてきた。
子どものころあまりにもお腹がすいてしまって夜中に起きてしまい、神官たちの食事を覗いたとき、見たこともないようなご馳走が並んでいてショックを受けた。
「私も欲しい」と神官たちに言うと「自分たちは神に許されている。聖女は血を流したものを食べると魂が汚れるからダメ」と叱られてしまい、言い返すことができなかった。
ほんとうに、不自由な境遇だった。
でも、もうエリアナは別人になったのだ。第二の人生は、絶対に好きなものをたらふく食べてやると決めている。
いままで横目で見てきた、おいしそうな食べ物の数々を思い起こせば楽しみでならない。
エリアナは大きな口を開けて肉にかぶりついた。
「う~~~~ん、おいしい~!」
「うまいでしょう! たくさんあるからどんどん食べて」
近くにいた騎士がぬっと顔を近づけてニカっと笑うから、エリアナはびくっと体を揺らした。すかさずスルバスが「近い! 寄るな!」と騎士をひとにらみして遠ざける。
「なんですか、団長だって近づいていたくせに」
ぶうぶうと不平をこぼし、天幕内での出来事を蒸し返すから、ほかの騎士たちも加わって騒がしくなった。
「もうお前ら、黙れ黙れ!」