護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

 ──楽しい。

「あはははは」と声を立てて笑うと、騎士たちが顔を見合わせてドっと笑った。

 こんなに笑うのは初めてだ。
 きさくな人たち。領主も人柄がいいのだろう。

 あまりにも気分が良くて、エリアナは歌を口ずさんだ。聖女として歌ってきた曲だ。騒がしさがなくなり、みんながうっとりと耳を傾けてくれる。
 歌い終えると、わっと拍手が起こった。

「上手いもんだな」
「ありがとうございます」

 エリアナは楽しげに食事をする騎士たちの中に、魔術師の姿がないことに気づいた。

「そういえば、トーイさんがいませんね?」
「ああ、彼は今殿下のところに報告に行っている」

 トーイは移動魔法で城まで行けるという。

「魔法って便利なんですね」
「今頃、魔術師使いが荒いと、げんなりした顔でぼやいてるだろうな」

 ははっとスルバスが笑う。

「今日はツキノワームの群れが出たから、魔力消費が激しいっていう浄化魔法を使わせちまったんだ」
「浄化魔法……」
「ああ、奴らが口から出す瘴気は体を麻痺させるんだ。瘴気除けの装備があっても命が脅かされる。広範囲の浄化だったし、騎士たちの傷も治したから。トーイはエリアナが起きる前までぐったりしていたんだ」

 スルバスは個体の縄張り意識が強いツキノワームが団体で出ることはないのに、今回は異例の数が出て、けが人も多く出てしまったと話す。
 天幕の中にいた騎士たちはトーイの治療を受けていたところだった。

「そうなんですか」
「そんな激闘の後に無傷のエリアナが見つかったから、警戒しちまった。エルフだと疑って悪かったな」
「いえ、そんな。誰もが怪しいと思うでしょうから」
「エリアナはこれからどうするつもりだ? 記憶がないのなら、行く当てもないのだろう」
「あ、はい。まったくお金も持ってませんし、住むところも……」
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