護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

大公殿下の秘密


 広大な敷地の中に建つアルディナル城。

 エリアナは殿下と面会をすることなく、侍女長のヒルダに挨拶と教育を受けて仕事を開始し、今日で一週間が過ぎていた。

 黒いワンピースと白いエプロンを身に着け、歌を口ずさみながらモップで廊下の床を磨く。一つに束ねた髪が、モップを動かすたびにフワフワと揺れた。

 ヒルダに挨拶したときに「あなたはなにができるかしら?」と問われ、すかさず「掃除です!」と力強く答えたおかげで、希望の掃除係につくことができた。

 全体的に経年の汚れがあるが、エリアナがゴシゴシ磨いた後の床は、ピカピカと光って見える。仕事の成果が目に見える、大変やりがいのある作業である。

「私にぴったり!」

 楽しくて、歌もでるというものだ。

 その澄み切った柔らかい歌声は、エリアナが思うよりもずっと広範囲に響いている。
 同じ一階のフロアで作業をする者、すぐ上の階で執務をする者、庭木にとまる鳥にまでも届いていた。

「エリアナ、ご機嫌だね!」

 通りすがりの梯子を持った若い侍従が、笑顔で声をかける。腰から下げている道具を見るに、彼は城の設備のメンテナンスをしている人だろう。

 エリアナは面識のない人だが、なぜか名前を知られているのは、他国から来た上に記憶喪失という独特さがあるからか。
 それに帝国一の魔術師というトーイの紹介なのが一役買い、働き始めて間もないのに、使用人たちの間ではすっかり有名人になっているようだった。
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