護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
代々続いてきた人の営みから出たもので、妬みや怒りなどのマイナス感情の塊だ。古い建物にはありがちで、あの澱みが消えれば城内は明るくなり気が滅入ることがなくなる。
あれさえ消せれば……。
そう思うものの、今のエリアナには浄化する術はない。今まで簡単にしてきたことができないのは歯がゆい。
それでも体に害を与えるほどの量や強さはないと思え、その点では安心できた。
──古い建物ならもっと濃い澱みがあるのに。もしかしたら、ときどきトーイさんが浄化魔法をかけているのかしら。
というか、なんとなく現在進行形で、わずかながらに澱みが薄まっているようにも見える。
浄化魔法をかけている最中なのかもしれない。
──魔法ってなんでもできてすごいわ。
ぽやっと天井を眺めているエリアナに、侍従は続けて話しかけている。
「だけどエリアナを見かけると、気分が軽くなるんだ。みんなそう言ってるよ。これからも仕事頑張ってね」
「じゃ、また」と手を振って、彼は急ぎ足で作業に向かう。
「ありがとう、あなたもね」
去っていく背中を追いかけるように声をかけ、振り向いた彼に手を振り返して、エリアナは窓を見た。
うっすらと窓に映る自分の姿はいまだに見慣れていなくて、うっかり鏡などに映ると「誰!?」と驚くこともしばしばだ。
「たしかに、華やかよね」
城の人たちにピンク髪がことのほか気に入られているようで、なんだか胸がくすぐったい。好意的な言葉をもらうのは初めてなのだ。素直にうれしい。
侍女として部屋をあてがわれたときに、最初に気づいたこと。赤くつややかだった髪は、なぜか甘いピンク色に変わっていた。
それに公爵令嬢の瞳は深緑だったと記憶していたが、若葉のような色に変化している。こうした色の変化は、魂が入れ替わった影響なのかもしれない。