護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
この姿はエリアナでなく、公爵令嬢でもない。万が一、神官やズルイータ公爵が探しにきたとしても、気づくことはないだろう。
第二の人生を謳歌できる、完璧なニューエリアナだ。
そうなると、王国の聖女の髪色も何らかの変化が起こっている可能性がある。
「きっと、驚かれているわね。神官は動揺してるかも」
中身も別人だとばれているかもしれない。
まあ、追放されて、今の環境に満足しているエリアナには関係ないことだ。
三食食べられて寝床があり、掃除をしているだけでお給金がもらえるなんて、最高の待遇ではないか。
聖女だったころはどんなに頑張っても、少しのお小遣いさえも手にしたことがないのだから、雲泥の差である。
お給金をいただいたらなにを買おうか。
──騎士のみんなと食べたお肉はおいしかったなぁ。
あれこれ思いを巡らすだけでまた楽しくなり、自然に顔がほころぶ。ニヨニヨして歌を口ずさみ、せっせとモップをかける。
ふと窓の外が気になって目を向けると、庭木の間に小さな子どもの姿を見つけた。
この城の中では珍しい金髪で、服装からは男の子だとわかる。窓からは少し離れた位置にいるが、子どもは何をするふうでもなく佇んでいるようだ。
──そういえば、殿下も金髪だって言ってたわね。
一瞬殿下の子かと思ったが、侍女仲間から「ルードリック大公殿下は独身」と聞いたことを思い出した。
身目麗しくて帝国一の騎士と誉れ高く、守護獣とともに領地を守る姿は凛々しくて、初代の大公殿下が皇弟だったために血筋は皇族という高貴さだ。
自慢の娘の嫁入り先として貴族からの絶大な人気はあるけれど、殿下が女性に興味なさすぎるせいか、いまだに婚約もしていないという。
雷撃を操るために、か弱い令嬢たちからは恐れられているとも聞いた。親に縁談を進められても、令嬢たちが嫌がるに違いない。