護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
エリアナも「殿下に失礼を働くと雷撃が飛んでくるかもしれない」と先輩侍女から脅かされて「なんて恐ろしいの!?」とブルブル震えたのだ。
代々大公家に続く呪いのせいで殿下の目が色を映すことがないため、色の話題は禁止。だからそれさえ避ければ大丈夫だろうとも教えてもらった。
話を聞くまでは雇ってくれたお礼をしたいと考えていたが、雇用主とはいえ、怖いから遭遇しないのが正解である。
殿下は執務室にこもりがちで滅多に出歩くことがない。先輩侍女も会ったことはないと聞き、安堵してはいる。
それはさておき、エリアナは子どものことが妙に気になった。
城で働く人は地味な髪色ばかりだから、その息子ではないと思える。殿下を訪ねてきた貴族の令息だろうか。きょろきょろしている様子は心細そうにも見える。
「迷子になっちゃったのかしら?」
見える範囲には使用人の姿はなく、令息の周りは木の葉が茂っているため、誰の目にも止まっていないだろう。
エリアナが声をかけて保護し、ヒルダに引き渡すのが賢明だ。
掃除道具を隅に置き、窓を開けて身を乗り出した。
「こんにちは!」
声を張り上げると、令息が振り向いた。エリアナを見るその瞳が、驚いたように見開かれている。
きっと、珍しいピンク髪にびっくりしたのだろう。令息の可愛らしさに、くすっと笑みがこぼれる。
「こっちに来てください」
笑顔のまま、おいでおいでと手招きをすると、令息はトコトコと歩いてきた。
窓の下まで来ると、青灰色の瞳がエリアナをキッとにらんでくる。
上質な素材で装飾の施された、きちんとした身なり。おそらく五歳くらいだろう。小さくても毅然とした態度をとるのは、さすが貴族の子だ。
「侍女がなんの用だ」
高飛車な口調は、なんとも生意気である。
「私、エリアナと申します」
「……エリアナ?」
令息の頬がぴくっと動く。警戒は薄まらない。