護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
「神官長からの伝言です。食事は五分ですませ、こちらの石に聖力をこめるように、とのことです」
彼が示したのは小さなクリスタルだ。聖物として神殿から民に分け与えるものである。
木箱の中にこんもりと積まれたそれを置き、使用人は部屋から出ていく。
「食事、しなくちゃ」
素朴なパン二つと三種の根菜をゆでたもの、それと野菜スープ。いつも変わらないメニューだ。
「いただきます」
パンを手に取ろうとしたときだった。ふと何者かの気配がして、エリアナはハッと振り向いた。
自分以外は誰もいなかった部屋の中に、黒いローブを身にまとった者がいる。
バッと椅子から立ち上がり、警戒心をあらわにした。
「誰ですか!?」
「聖女さまを救う者、とでも言いましょうか」
男の声だ。
低く、くぐもったような不気味な声。フードを目深にかぶっているので、顔がよく見えない。
「私を救うとは……?」
「この国の者たちは聖女に守られていることが当然で、慣れ切っている。国も神官どもも力を搾取するだけで感謝もない。あなたもうんざりしているでしょう」
男は黒くまがまがしい気を放っていて、救うという言葉とは真逆の意思を感じる。
男の口元が不気味な笑みを作り、黒い気がもわっと立ち上がった。それがエリアナを襲ってくる。
逃げなければならないのに、なぜか体が動かない。
「私に……なにを……するの」
声を絞り出すのもつらい。
石柱の浄化で聖なる力がほぼ残っていない今は、黒い力を跳ね返すことも難しい。
まがまがしい力がエリアナに迫り、意識が混濁してくる。
「この国は私にお任せください」
その声が聞こえたのを最後に、エリアナは意識を失った。