護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
どうしてこうなったのか。
殿下の執務室で、エリアナは心臓をバクバクさせながら冷や汗をかいていた。
あのあと殿下は手をつないだまま、ひらりと、いとも簡単に窓の桟を飛び越えて城の中に入った。
どこからともなく現れた騎士からローブを受け取ると、体に残っている布を取り払って、バサッと、華麗に羽織ったのだった。
「この侍女はこのまま執務室に連れていく。トーイを呼べ」
殿下はそうのたまい……現在、恐れ多くも並んでソファに座っている。
──追われているというのはうそだったの?
執務室は広く、窓際には立派な机が置いてあり、わきの壁には金地に黒獅子が描かれた紋章が掲げられている。
白髪交じりの男性は補佐官のセブルスと名乗った。
「ひとつ聞きたい」
ふいに殿下に話しかけられ、エリアナの心臓がバクンと跳ねる。もう寿命が縮まる思いである。
──怖い。
顔つきや声は怒ってないようだけれど、醸し出す雰囲気が恐ろしすぎるのだ。
「は、なんでしょう」
「歌っていたのは、きみか?」
勤務中の歌を咎められるのかもしれない。自分ではないと言いたいが、ばれた場合にどんな恐ろしい目に合うか。
うそつきは嫌いだと、雷撃を飛ばされるかもしれない。
「歌……ってました」
「ふむ、ならばここで歌ってくれ」
一瞬躊躇するものの、すうぅと息を吸い、言霊をメロディにのせる。
幸福、感謝、守護、豊穣。
祭祀のたび歌ってきた祝福の歌。あらゆる娯楽を禁じられていたから、これ以外の歌を知らない。