護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
その子はふんふんとエリアナの匂いを嗅ぐ仕草をし、ふわっと膝の上に乗った。翼を仕舞って丸くなって休んでいる。
──え、この子どうすればいいの?
かわいらしいちび獅子の動向にエリアナが戸惑っている間にも、トーイと殿下の会話がなされている。
「……なるほど。それでは殿下、手を離してみてください」
トーイの進言で殿下が手を離すと、彼はぼふんっと現れた黒い靄に包まれてしまった。
エリアナは思わず「きゃっ」と声を上げ、膝にいたちび獅子は姿を消してしまった。
かつて遭遇したことがない、恐ろしくまがまがしい靄がエリアナの隣でうごめいている。鳥肌が立って息苦しく、気を張っていなければ意識を失いそうだ。
──なにこれ。殿下は大丈夫なの?
それが消え去ると、となりには五歳の子どもがいた。
ちまっとした体が大きなローブに埋まっている。
「殿下……またも子どものお姿に……」
セブルスが悲痛な声を上げ、エリアナは困惑しているが、トーイは冷静な様子だ。
「では、今一度、彼女と手をつないでいただけますか」
小さな手がエリアナのそれを握ると、パチンっと音がして痛みが走り、ぶわっと大人の姿に戻った。
「ははっ」
殿下は息を吐くような調子で笑う。空いている方の手のひらを見つめている顔つきは、笑顔というより怒り笑いだ。
「どうやら、彼女と手をつないでいるときだけ呪いが軽減され、もとに戻るようですね」
トーイは深刻に考え込んでいる。
「……呪い?」
エリアナの疑問に、セブルスが「私がお答えしましょう」と、ついっと進み出た。
「殿下は、ひと月ほど前、呪いにかかって子どもの姿になってしまわれたのです」
セブルスは沈んだ面持ちだ。領主が子どもになってしまったのだ。補佐官である彼の心痛は計り知れない。
「さっきの黒い靄が呪いの正体なのですね」
エリアナは考え込んだ。