護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
どこの誰ともわからぬただの掃除係に敬称をつけるほどに弱っている。
大人から五歳児になった殿下はたいへん気の毒だし、主君を思うその心情はとても理解できる。
エリアナも全くの別人になったときは、力を失った戸惑い、恐ろしさ、無力感に襲われたのだ。
エリアナの場合はすぐに立ち直った……それどころか喜んだけれど、殿下はそうじゃない。
けれど、契約したこともないのに思い出せというのは無理である。
加護ではなく、考えられるのは聖なる力なのだが、はたしてそうなのか。今だって、この体のなかにある力は微々たる量だ。
なのに、なぜ呪いが軽減できるのだろうか。なにかの加護があるならば、エリアナのほうが知りたい。
「でも、ほんとうになんの加護もないんです」
あせあせと否定するエリアナの前に立ったトーイが、ずいっと顔を近づけた。
「そんなことはないと思います。先ほどの歌ですが、心地よく聴いているうちに、消費していた私の魔力が少し回復しました。死の森を越えてきたことといい、実に興味深いです」
トーイはおもしろい実験対象を見るようなまなざしだ。
「自然に回復したのでは?」
「そんなことありません! 消費した魔力の回復には睡眠が必要なのです」
「えっと……あっ、さっきの歌は、歌詞が言霊なので、そのせいかも?」
「ほう、言霊ですか。ますます興味深い!」
トーイの瞳がきらきらと輝いて、まぶしいほどの笑顔だ。思わず顔を背けると、となりから出された腕がトーイを遠ざけた。
圧がなくなってホッとし、心の中で殿下に感謝を述べる。
──強引で怖い人って思ってて、ごめんなさい。
密かに、殿下の呪いが一日でも早く解けるよう、ナンザイ王国の神であるアクエラに願った。
「エリアナといったな。俺は、正体不明のきみを信用していない。だが、こうなったからには、協力してもらうしかなさそうだ」