護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
「仕事は掃除。ピンクの髪をフワフワ揺らして楽しそうにモップをかけて窓を拭きます。歌を口ずさむこともあり、聴いていると心が和みます」
──まあ、歌はそうだったな。
「夜はなにをすることもなくベッドに入り、幸せそうにすやすや眠っています」
──……。
「彼女が来てからは城中が明るくなったと、使用人たちに好意的に受け入れられています。どこかに連絡をしている様子は、まだ見られません」
ビクスが話し終え、ルードリックはぽかんとしていた。
報告内容にところどころ感想が含まれていることに驚き、影獅子が毒気を抜かれていることを意外に思っているのだ。
「……殿下?」
「いや、冷静なビクスが対象にほだされているのは、初めてだな」
「はっ」と笑うと、ビクスはびくっと体を揺らした。子どもの姿でも、ルードリックの覇気は健在だ。
「それは……申し訳ございません」
──まあ、わからないでもない。
貴族令嬢だったのか、ルードリックの圧を受ける執務室の中にいても姿勢も所作も堂々としていた。それなのに言葉を交わすとポヤポヤした雰囲気があって、ルードリックを困惑させた。
すべてが目を欺くための演技だとすれば、周囲を騙しきる一流のスパイだ。
監視させたのも、たかだか一週間の行動にすぎない。
まだ、信用できない。不明な加護の力、身の危険を冒してまで死の森を渡ってきた目的、記憶喪失だと言うが真実か。謎が多すぎるのだ。
そのうちぼろが出るだろう。
身近に置けば、見破るのも容易い。
彼女の力で呪いが軽減することを感謝しているが、領主としてはスパイを警戒しなければならない。
「引き続き、監視をしてくれ」
そう命じると、ビクスはふっと姿を消した。