護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
二章 どうやら特殊な力のようです?
大公殿下の手を握る係なのです
エリアナがルードリックの執務室に出勤するようになって、五日が過ぎた。
初日はドアをノックするのも緊張したが、六日目ともなれば少しは慣れてくる。
「殿下、エリアナです」
「入れ」
声はすれども姿が見えず。
執務机に近づいていくと書類の山で隠れている姿を見つける。
いつもルードリックは執務椅子にちょこんと座ってエリアナを待っているのだ。
大人用の椅子に座る五歳児の体。
小さな足がプラプラと宙に浮かんでいるのがかわいらしい。きれいな顔立ちだから、無言で澄ましていれば高貴な人形のようでもある。
「おはようございます」
「おはよう。今日もよろしく頼む」
微笑むこともなく尊大な物言いだけれど、五歳児らしくぴょんっと椅子から降りて、手を差し出したときの目がわくわくと輝いているように見える。まるで好物の食べ物を前にしているような純粋さだ。
こんな子どもの姿のときは、ほほえましいのだが。
「では、失礼いたします」
小さな手に触れた途端に威厳を身にまとった、近寄りがたいアルディナル大公殿下に変わってしまう。
ふわっと前髪を揺らして、見上げるほどに背が高くなったルードリックの顔がエリアナに向けられる。きらきらと光を放つような端整な顔立ちが目にまぶしい。
「はっ」と、息を吐くような笑い顔もが麗しく、エリアナは直視できずに目をシパシパさせた。
「毎度ながら不思議だな」
「はい……私もです」
体が伸び縮みする際の服装問題は、殿下の胸元に光るブローチのような魔道具で解決されている。
エリアナが専属侍女に決まった直後、トーイが城の魔道具師に制作を依頼し、徹夜で作り上げたと聞いている。
──やっぱり魔術って不思議で便利。
エリアナが隣の椅子に腰かけると、ルードリックはすぐに仕事を開始する。
そしてちび獅子がどこからともなくフワフワパタパタ飛んできて、定位置とばかりにエリアナの膝で丸くなるのだ。
ここまでがここ数日のルーティン。