護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
──もしかして、この子が私の守護獣なのかしら?
エリアナしか見ることができず、毎度膝に乗ってくるほど慕われているようだから、そう考えるのが妥当だろうか。
けれど、加護の力を受けているならばそれなりに守護獣と心が通じるだろうに、いっさい感じないのは腑に落ちない。
実体なきちび獅子の背を撫でてみる。
精霊らしい、ほわっとしたエネルギーを感じるが、強力な呪いを軽減するには力が足りないとも思う。
それどころか弱っている印象さえ受ける。
守護獣についてルードリックに尋ねたいが、仕事中の彼に声をかけることはできない。
仕事を始めたルードリックの集中力はすごい。机に積みあがっていた書類の山が、どんどん低くなっていく。
ペンを走らせる音、書類を扱う音。ときおりセブルスと交わされる静かな会話。厳粛な雰囲気の執務室内では自分の呼吸音までもが響きそうだ。
まあ仕事中でなくても、自分から話しかけることは恐れ多くて難しいが。
──でも……子どもの殿下なら、気後れしないかも。
「エリアナさま、こちらをどうぞ」
セブルスがエリアナの横に置かれた小さなテーブルの上に、お茶と色とりどりのマカロンが乗ったお皿を並べてくれる。
本来なら侍女の仕事なのに、この現状では執務室内で雑用をこなせるのはセブルスしかいない。
「いつもありがとうございます」
「いえいえ、エリアナさまは、殿下の大切なお方ですから」
「……っ」
事情を知らない人が聞けば誤解されそうな言い回しに、エリアナは冷や汗をかいて口をぱくぱくする。
ルードリックの耳にも入っているだろうが、端整な横顔に変化はない。
「セブルスさん。それ、外で言ってはだめですよ?」
セブルスは「ほっほっほ」と嬉しそうに笑う。
それに、さま呼びはやめてほしいと何度も伝えたのに、セブルスは頑として聞き入れない。