護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
追放されました
「ほらっ、さっさと行け!」
ドンッと背中を押された赤毛の娘は地面にばったりと倒れた。
つややかな髪は乱れ、土で擦れた手のひらには血が滲み、クリーム色のドレスには泥がついた。
「せいぜい死の森でくたばらないようにするんだな!」
「まあ、無理だと思うが!」
暴言を吐き、乱暴な振る舞いをした衛兵たちは「あははは」と大きな笑い声を上げながら去っていった。
「いったいなにが起こったの?」
呆然とつぶやいた声に反応する人はない。目の前には衛兵たちが去って行ったナンザイ王国を囲む高い壁がそびえるばかりだ。
冷たい壁に設置された鉄の扉は固く閉ざされ、もう二度と娘のために開かれることはない。
「私はエリアナ・グリーンよ……なのに、どうして……」
エリアナは空を見上げた。
ナンザイ王国を囲む壁の上空には聖女が張った結界がはっきりと見える。
「あれが見えるってことは、まだ力はあるみたいだけど……?」
きらりと光る透明で強固な幕は魔物や瘴気から国を守っている。力なき一般人には見えないもので、エリアナが張っていた結界だ。
ナンザイ王国唯一の護国聖女、エリアナ・グリーン。
史上最強の聖女と言われ、力を維持するために毎日早朝に祈りを捧げ、浄化や祝福を与える日々を送ってきたのだ。
昨日までは。
「昨日のこと、思い出さなくちゃ」
早朝に目を覚まして神殿で祈りをささげ、朝食の後は国境にある塔の結界柱を浄化して、塔の休息室で休んで……。
「あれ?」
なぜか記憶に空白がある。思い出そうとしてもなにかに阻まれるように、ぷつんと途切れてしまう。
ベッドで目覚めたら、どかどかと部屋に入ってきた騎士たちに拘束されたのだった。
問答無用で謁見室に連れていかれ、エリアナが目にしたのは信じられない光景だった。
輝く銀髪に金色の瞳、純白の神殿服を身にまとった〝自分〟がエリアナを見下ろしていたのだった。
「どうして……」