護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
「体力的にキツイことはございませんか?」
「いえ、私は座っているだけですから」
なにかしらの力を使っている自覚がなく、体力はまったく消耗しない。
ただ手に触れるときに少しばかりの痛みを感じるだけだ。乾いた季節に金属製のドアノブに触れた時のような、ピリッとした刺激。
「それでも、殿下の手を離さずにいるのは案外疲れるものでしょう」
セブルスはひそっと尋ね、エリアナは微笑みを返すにとどめる。
たしかに集中しているルードリックの手を離さずにいるのは大変である。ペンを持たないほうの手とはいえ、書類を取ったり押さえたりと頻繁に動くのだ。
たまにクッと眉が動くことがあり、自由に動かせないことに苛立っているのを感じる。
でもその苛立ちをぶつけることはしない。それどころか手の動きを緩めたり、かえってエリアナを気遣うそぶりを見せる。
だからエリアナは極力仕事の邪魔をしないように、手を握るというより手首をつかんでいることが多いのだ。
セブルスはよく見ている。
お茶が冷めないうちにどうぞと勧められ、エリアナはありがたくいただくことにした。
薫り高い紅茶、甘いマカロン。
──う~~ん、おいし~~い。
最高の贅沢だ。甘いものって、なぜこんなにも幸せな気持ちになれるのか。
頬を緩めてほっこりしていると、膝の上のちび獅子がむくっと起きた。きゅるんとした赤い目がエリアナを見つめている。
──どうしたの?
ちび獅子は執務室のドアの方へ鼻先を向ける。
まもなく、ドアがノックされた。許されて入ってきたのは侍女長のヒルダである。
「殿下、サリナさまがお会いしたいとお越しになり、応接間でお待ちです。いかがいたしますか」
ビクッと反応したのはルードリックだ。
──サリナさま。どこかで聞いたような……?
「……母上が?」
──そうだ、殿下のお母さま!