護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
引退した先の大公殿下夫妻は、離れで過ごしているとエリアナは聞いている。
離れは本城の西方にあって豊かな緑と美しい湖が望め、馬車移動するほど遠くにあるので、本城しか出入りしていないエリアナは最初の教育以来名前すらも耳にしたことがない。
「殿下……」
不安そうな声はセブルスだ。動揺している様子から、突然の訪問なのだろう。
子ども化の呪いのことは報告していないのかもしれない。
「お会いする。きみも来てくれ」
ルードリックはエリアナの手を取って手首から外して握りなおした。大きな手のひらがエリアナの小さな手をしっかり包んでいる。
「え、私もですか」
「無論だ」
──ひょっとして、このままいくの?
この状態で先の大公妃に会えば、エリアナはずっと現大公殿下の手を握っている不埒な侍女になってしまう。
──殿下もあらぬ誤解をされてしまうんじゃ?
エリアナはおろおろとルードリックを見上げる。
「叱責されて、追い出されるのではないでしょうか?」
「きちんと説明するから、大丈夫だ。さあ、行こう」
ルードリックに手を引かれて立ち上がると、ちび獅子はふよふよとエリアナの頭上で浮かんだ。
執務室以外で手をつないでいるのは初めてだ。
身目麗しくて威厳たっぷりな雷撃の大公殿下が、出自が不明の専属侍女と手をつないで歩いてるなんて、いったいどんな絵面だろうか。
──想像したくもないわ……。
だれかに見られたらどうしようと、妙な緊張感がエリアナを襲う。
青ざめて心臓をバクバクさせていたが幸い応接間は近く、懸念することは起こらなかった。ヒルダが中に向けて声をかけ、ドアを開ける。
そうすれば、先の大公妃に会う緊張でますます胸の鼓動が高まった。
ルードリックはエリアナの手を引いてスタスタと室内に入る。
二人の姿を見た先の大公妃は、手にしたカップをそのままにして固まっていた。