護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
つぶやいた声に反応したのは王太子で、椅子からバッと立ち上がり声を荒げた。
「ズルイータ公爵令嬢! 聖女エリアナを拉致して殺害しようとしたばかりか、あろうことか聖女の名を騙るなど言語道断! 今までの悪事の数々も加味し、ナンザイ王国からの追放を命じる!」
訳が分からないまま断罪されて、着の身着のまま護送されて今に至っている。
「たしかに、赤毛なのよね」
何度たしかめても指に触れるのは赤くてつややかな髪だ。
今まで他人だった体が自分のものになった現実は衝撃的で、理解が追い付いていない。
けれど国を追い出されてしまったからには、これからはひとりで生きていかねばならない。
「ひとり……」
ぼそっとつぶやくと、なんともいえぬ感情がこみあがってきた。
「自由……なのよね?」
孤児だったエリアナは幼いころ聖女の力に目覚めて神殿に入り、厳しい規律の中で生きてきた。奉仕、浄化、祝福、巡礼の日々。
国のため、民のため。力あるものは惜しみなく与えるもの。
清貧、清廉潔白であるべきだと教育され、自由や娯楽など味わうこともなかった。
幼いころは体力がないために、疲れ切って倒れることもしばしばあった。それでも力を使うのが当然だと、体調が悪いから休みたいと言っても『聖力の出し惜しみだ』『聖女なのに疲れるはずがない。さぼっている』と非難された。
子どもらしい体験などひとつもなく、巡礼のたび元気に駆け回る同い年くらいの子たちを見てうらやましく思った。
十八歳になってからは王太子の婚約者になり、妃教育まで加わってしまい、ますます窮屈な毎日を送っていたのだ。
「そうよ」
体がフルフルと震え、自然に顔がほころんでしまう。
「もうなにもしなくていいのね! やっほい!」
エリアナは両手を空に突き上げた。
なんてラッキーなことだろう。