護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
──はわわ……困る……どうしよ。それに、なにを言っているのか、よくわからないよ。
「あの、トーイさん、落ち着いて」
エリアナはたじたじと後ずさりをした。そうすれば背中になにかがトンと当たる。
「トーイ、近い。離れろ」
背後から出された小さな手と、頭の上から出されたちび獅子の肉球がトーイの額をぐぐっと押した。
すぐ横に、むっとした顔つきのルードリックがいる。
「興奮しすぎだ」
五歳児姿のルードリックにたしなめられ、トーイは落ち着きを取り戻したようだ。コホンと喉を鳴らす。
「とにかく、それだけ素晴らしい力なんです。私の知る限り、帝国、いや世界で唯一といえましょう」
──どうしてそんな力が?
体に宿る聖なる力は微量なままで変化はない。ということは、解呪の根源は聖なる力ではないのだろう。
エリアナは自分の手を見つめた。もとが貴族令嬢のすらりとした美しい手指だ。ズルイータ公爵令嬢に備わっていた力なのか。
──それともちび獅子の加護? この力は、あなたなの?
頭上のちび獅子に問いかけるも、反応はかえってこない。ただ、お気に入りの寝床にいるだけという感じだ。
やはり、ちび獅子の主はエリアナではない。
「もしかしたら、今回の装備が長持ちしたのもエリアナのおかげということか?」
呆然とした声はスルバスだ。
「スルバス、どういうことだ?」
スルバスの腕に収まっているルードリックが彼を見上げる。
「今回、エリアナが泊まった天幕にあった瘴気除けの魔石が五日間も働いたんです。あの死の森の中、普段ならば二日が限界なものです」
「ふむ、エリアナが、なにかしたのか?」
ルードリックがこてんと首をかしげる。
「とくになにも……したといえば、鎧や剣の前で跪いて、みなさんがけがをしませんようにと願っただけです」
「歌も、歌ってましたよね! 心が温かくなる歌声でした」