護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
想定外の派手な登場にエリアナの心臓はバクバクだ。ホール中の視線が集まってしまい、知らずに手に力が入る。
「まさか大公殿下がいらっしゃるとは!」
「しかもパートナーをお連れよ」
「どちらのご令嬢かしら? 美しいお方ね」
「ご令嬢の誕生パーティに殿下が出席なさるとは、伯爵夫人の社交手腕もたいしたものだ」
などなど、視線を外されることなくひそひそと囁かれていて、エリアナは微笑みを崩さないように頑張る羽目になった。
ホールの上手から急いで近づいてくるのはコール伯爵夫人だろう。後ろから縦巻きの髪をツインテールにした令嬢もついてくる。
「大公殿下、お出迎えもせずに大変失礼をいたしました。わが娘の誕生祝にご臨席賜りまして大変よろこばしく……」
伯爵夫人が挨拶する傍らでは、ご令嬢が頬を染めて麗しいルードリックを見つめている。
可愛らしい顔立ちだけれど、周囲のささやき声を耳にしているせいか、ツンとしている笑顔からはルードリックが来たことを自慢げにしている様子がわかりやすいほどに伝わってくる。
伯爵令嬢の背後では、友人らしき令嬢たちがうらやましそうにしているのだから、当然だろう。
伯爵夫人も同様で、鼻高々のようだ。
──それより……マクスさんや、肝心のコール伯爵はいないのかしら?
事前の話し合いでは、マクスが執務室や寝室などに忍び込む手引きをすることになっている。
笑顔の夫人が令嬢をスッと前に押し出した。
「わが娘のイラーネでございます。ぜひ、殿下とのファーストダンスの」
ルードリックはスッと手のひらを夫人に向け、続く言葉を制した。
「あいにくだが、パートナー以外の手を取るつもりはない」
きっぱりと、恐ろしいほどに冷たい物言いだ。一瞬で場が凍り付き、夫人の笑顔が消える。