護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
断るにしても、もうちょっと優しく……と思うが、これが本来の姿なのだろう。サリナが困っていた通りである。
「そ、そうでございますか。残念でございますわ」
ルードリックが断るのは仕方がないこととはいえ、イラーネがしゅんとしてしまったのが気の毒である。
──デビュタントで誕生パーティの主役なのに、ごめんなさい……。
しかしながらキッとエリアナをにらむのは理不尽だ。
「ところで伯爵はどちらだ?」
「申し訳ございません。主人は体調が思わしくなくて別室で休んでおりますわ」
「そうか。それは心配だな。実は私のパートナーは良い治療師なんだ。伯爵の様子を診させよう。いいだろうか、エリアナ?」
──すごく自然な流れだわ。
打ち合わせなどしていないのに、さすがの機転に感心し、エリアナに自然な微笑みがこぼれた。
「もちろんでございます。夫人、ご案内いただけますか?」
「い、いえ、大公家の治療師さまのお手を煩わせるほど悪くございませんので、どうかお気になさらず、パーティをお楽しみくださいませ」
夫人は礼を取ってイラーネの手を引き、ほかの貴族がたのもとにそそくさと向かった。
「治療師と聞いて焦っていたな」
「そう見えましたよね」
伯爵夫人が去ると、わっと貴族がたが集まってきた。
ひととおおりの挨拶を交わして、各々自慢のご令嬢の紹介に移っていく。きれいな微笑みを浮かべる令嬢が集ってきた。
みんな二十歳前後らしく、ルードリックと年齢が近い方々だ。
「……面倒な」
エリアナにしか届かないような極々小さなつぶやきの直後、ゾッとするような気がルードリックから放たれた。
隣にいるエリアナは腕に捕まっていなければ腰を抜かしていたかもしれない。
これがサリナの話していた〝怖いオーラ〟なのだろうか。全員の貼り付けていたような笑顔が消えてしまっている。