護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
「貴公らの話題は私の大切なパートナーを退屈させてしまっている」
ロードリックの声は平たんだけれど、込められている静かな気迫が囲んでいる貴族たちを後ずさりさせた。
囲いが遠のき、エリアナに向かい合って手を取ったルードリックからは気迫も怖いオーラも感じられない。
「すまない、エリアナ。私とのダンスで機嫌を直してくれないか」
ルードリックがエリアナの指に唇を落とし、場内を衝撃の渦に落とした。エリアナも例外ではない。
──で、で、殿下……!!
「エリアナ?」
口づけをした体勢のまま見つめてくる、その破壊力抜群な麗しさにエリアナの心臓は持ちそうにない。
「ま、まあ。うれしい。もちろんですわ」
ドキドキしすぎて棒読みのセリフのような受け答えになってしまった。
ルードリックがフッと微笑み、エリアナをホールの中心部へと誘う。
中央で向かい合うと楽団が示し合わせたように音楽を奏で、ルードリックとの初ダンスが始まった。
先ほど怖いオーラを発した人と同一とは思えない柔らかくて踊りやすいリードだ。
公爵令嬢のスキルが足りないほどの洗練さに惹かれ、緊張していたエリアナも次第に楽しくなってくる。
「意外に上手いんだな」
「殿下のリードが素敵なんです。ダンスが楽しいと思ったのは初めてですよ」
「俺もだ」
ルードリックは笑顔ではないが、いつにない明るさがある。
ダンスが終了すると自然に拍手がわきおこった。
「殿下はダンスもお上手ですのね」「ほんとうに。うっとりしてしまいましたわ」などと話している声も聞こえてくる。
──サリナさま、殿下とのダンスミッション、成功みたいです……。
四つのうち一つが無事にでき、ホッとするも肝心の呪物探しは着手できていない。
ホールの中心から下がる殿下の元には誘いの声と手が伸ばされてくる。それを華麗に避けながら隅に移動した。