護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
「殿下」
こっそりと近づいてきたのはマクスだ。
「遅かったな」
「申し訳ございません。父上を使用人の目から逃れさせるのに手間取りまして」
マクスはわずかながらに黒い靄を纏っている。それは今まで呪物の近くにいたということだろうか。それとも伯爵からの影響か。
「殿下、やはり呪物があるみたいです」
「マクス、案内しろ」
「御意」
先導する彼の後に続いていくと、庭園を抜けたところにある小屋にコール伯爵とマクスの兄がいた。
伯爵は椅子に座っているけれど心が虚ろな様子だ。ルードリックが訪れたことにも気づいていない。
──こんなにひどい状態だなんて。
「今日は特にひどいんです」
マクス兄の声は悲しげだ。
エリアナの目にはコール伯爵の体に黒い靄がかかっているように見える。特に頭部が濃くて顔も見られないくらいだ。
靄からはなにも考えられなくなるようなイメージを受けた。
「トーイさんの予測通り、洗脳されているみたいです」
「このまま解呪できるか?」
今日はなにがあっても手を離してはならない。
「やってみます」
腕を組んだ体勢から手つなぎに変え、伯爵に近づいた。
毎度毎度痛みを感じるので、おそるおそる腕を伸ばしていく。伯爵の手に指先が触れそうになった、瞬間。
パチッ!
「きゃ……っ」
それほど強い痛みはなかったものの、はじかれるような衝撃を受けて体がよろけてしまった。
「エリアナ!」
ルードリックがエリアナの体を庇うように腕の中に入れる。
「けがはないか?」
「私は大丈夫です。びっくりしただけで。それより伯爵さまが……」
「ぐううっ」
苦し気にうめき声を上げる伯爵の顔がゆがみ、頭を抱えている。体に浸透した呪いを打ち消す痛みと戦っているのだ。
まもなく伯爵を覆っていた黒い靄がサァッとはれていき、瞳に生気が戻っている。
顔を上げた伯爵がきょとんとして周囲を見回した。