護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
「ならば……常に身近にはないが、効果を発揮する呪物の可能性があるな。伯爵、なにか心当たりはないか?」
伯爵はしばらく記憶を探ったあと、「そういえば」とつぶやいた。
「リラックス効果があるというお香を焚いていたが、あれがそうだろうか」
「確かめる必要があるな……トーイ」
パッと姿を現したトーイが「呼ばれるのをお待ちしておりました」と口角を上げ、ルードリックのそばにいたエリアナはギョッとした。
──移動魔法? 殿下の呼び声だけで小屋の中に現れることができるものなの?
「トーイさん、護衛と一緒に待機していたはず……?」
「いえ、私はずっとふたりのおそばにいましたよ」
トーイはニッと笑う。
「え、どういうことですか?」
「自分の姿を認知させない『認識除外』だ。これを発動しているトーイは騎士として気配を察知することに長けている俺でも認識できないことがある。これほど精巧なものは、帝国でもトーイしかできない」
──殿下もわからないって。それじゃ、どこにだって忍び込めちゃうんじゃ……?
男子禁制の場所や厳重警備の場所にも。
エリアナの心の声そのままに、ジト目になっていたらしい。トーイが気まずげにコホンと喉を鳴らした。
「あなたがなにを考えているかわかりますが。もちろん、主君の命令以外では使いませんよ。制限がかかっていますから」
「それよりトーイ、話は聞いていただろう」
ルードリックの問いにトーイは引き締まった顔つきに戻る。
「はい、煙を吸い込むお香ならば即効性がありそうです。先ほどの様子から、長期にわたって吸い続けていたのでしょう。寝ている間ならば防ぎようがありません。伯爵はかなり危険な状態だったと言えます」
「再起不能寸前だったわけか」
「なんと……!」
伯爵が動揺し、マクス兄は言葉も出ないようだ。
「父上に、なんてことを!」