護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
伯爵夫人は勝ち誇った笑みを見せた。
「なにも秘策なんてございませんわ。ただ、愛らしいと評判のわが娘・イラーネに会いにいらしただけでしょう。ご挨拶したおり、熱いまなざしで娘を見ていらっしゃったもの」
まったくそんな事実はないのだが、大公の目線など遠目から判断できるものではない。このうわさが広まればイラーネの人気は不動となる。言ったもん勝ちだ。
「まあ、そうですの?」
「でもそのわりに、イラーネさまとダンスはされていませんわよね? せっかくのデビュタントですのに伯爵さまもいらっしゃらず、ご兄弟の姿もなくて。ファーストダンスは夫人のお父上でしたわね」
痛いところを突かれて「うっ」と詰まるも、すぐに気を取り直して「オホホホ」と余裕ぶった。
「ええ、そうですの。娘はわが父を慕っておりますので喜んでいますわ。それに殿下はパートナーさまをお連れですもの。イラーネがお目当てでも無礼なことはなさらないでしょう。さすが紳士の大公殿下ですわ」
「そうですわね。あのお方は殿下の婚約者となられるお方なのでしょうか」
「正式発表の前にお披露目にいらしたのかもしれませんわね」
ご夫人たちは滅多にお目にかかることのない大公殿下の話題で持ちきりだ。
それはイラーネの友人たちも同じで、大公殿下のご尊顔とピンク髪のパートナーの美しさに感嘆しきりである。
「ルードリックさまがあんなに素敵なダンスをされるなんて」
「ご覧になりました? 殿下のおやさしいお顔!」
みんな素敵な婚約者に巡り合うことに憧れるお年頃だ。イラーネを囲む令嬢たちは頬を染めてうっとりしている。
対してイラーネはにっこりしながらも苛立っていた。
「そういえば、わたくしお母さまのところにいかなくては。失礼しますわ」