護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
「いったいなにが起こっているの」
なにか見落としている。
早く大公のところに行かねばならないのに、イライラと考えを巡らせて、ハッとする。
「主人のところにピンク髪の女性がきたかしら?」
「いいえ、そんなお方はいらしてません」
ならば治療師の仕業ではない。自然に効果が切れたのかもしれない。
これまでうまくいっていたのに、なぜ肝心な時に。時間なんかかけずに早く亡き者にしてしまえばよかったのだ。
「いいわ。あなたたちはここにいて。誰も中に入れないでちょうだい」
伯爵夫人は執務室のドアをノックし、そ知らぬ体で入った。
姿勢正しく座った伯爵は生気に満ちあふれ、夫人を見とめた目は険しい。
おかしい。効果が切れたとしても、こんなにしゃきっとするとは……かえって以前よりも体調が良いように見える。
「体調が悪いと臥せっておいででしたのに。お仕事などなさって、お体は平気なのですか?」
「体は清々しいが、気分は最悪だ」
眼光鋭く「これを見よ」と、夫人に帳簿を突きつける。
「なんのことでございましょう?」
「なぜこんなにも事業資金が流出している? 月に二百万ゴールドも送金している『ヘッボ』という項目はなんだ? 答えてみよ!」
「まあ、そんなに興奮なさってはお体に毒ですわ。いつものリラックスするお香を焚きましょう。気分が落ち着きますわ。お話は、それからゆっくりと」
夫人は香炉を置き、お香に火をつけた。甘ったるい匂いの煙が伯爵の体を覆うように漂う。
「うぐうぅっ」
煙を吸って苦しそうにうめき、顔をゆがめた伯爵が頭を抱える。次第に顔がトロンとして深呼吸するように煙を吸い始める。
「そう。お上手ですわ。もっとたくさん吸ってくださいな……吸えば吸うほど、ご気分が良くなりますよ」
雷撃の大公用にたくさん持ってきてよかったと、夫人はあくどい笑顔を浮かべた。