護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
伯爵夫人は青ざめてわなわなと唇が震えている。
「私が正気なのが不思議か? 今の私には呪物など効かない」
「どうしてそんな……まだ今なら……証拠がないわ……そうでしょう」
ブツブツとつぶやきガタガタと震える夫人の前に、パッと現れたのは濃紺の髪の男性とピンク髪の治療師だった。
「私は魔術師のトーイと申します。あなたの悪行はしっかりと見聞きさせていただきましたよ」
腰を抜かした夫人がぺたんと床にへたり込むと、体格のいい使用人が令息を伴って部屋に入ってきた。
「おまえは休憩室担当の、私を助けなさい……!」
令息が夫人のもとに歩み寄り、幼い子ではとうてい無理なはずの殺気を放った。
「スルバス、呪物使用違反で捕縛を」
「御意」
使用人が令息の命令を受けている。伯爵までもが令息に敬意を払っている。そのありえない事態を飲み込めずにいる夫人にトーイがボソッと告げる。
「殿下が幼い子どもに見えるのは、呪物の使いすぎですよ」
「そ、そう……ふふふ……ふふふ……呪いが……私に……ふふふ」
夫人は捕まり、パーティには病気だと聞かされていた伯爵が姿を現して騒然とし、イラーネのラストダンスは行われないまま閉会となった。
裁きがが行われて夫人は規律が厳しい修道院おくりになり、伯爵との離婚が成立したため、イラーネは夫人の実家で暮らすことになった。