護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

「そうならないように、ドラゴンの心臓を探していたんだが……」

 ルードリックは子ども化の呪いを受けた当時を語り始めた。

 二か月ほど前、ルードリックは黒獅子騎士団を率いて死の森の奥深くに分け入っていた。山の中腹で樹木や草に隠れるようにしてぽっかりとあいた穴。それを前にして期待と不安を胸に抱えた。

『ここか』
『本当にこの洞窟にあるのでしょうか』

 黒獅子騎士団・団長のスルバスが懐疑的な声を出す。
 無理もない。多くの文献をもとに割り出した場所は数知れないが、訪れた先はどこも空振りに終わっているだから。

『さあな。あれば幸運だ』

 ルードリックは青灰色の目を洞窟内に向けた。
 ずっと呪いを解く鍵……二代目が逃してしまったドラゴンの心臓を探し求めている。心臓を壊して呪いさえ解ければ、先代の目も治せるかもしれないのだ。

『【ナギュルス】』

 ルードリックが名を呼ぶと、大きな黒獅子がシュオンッと姿を現した。ルードリックのわきに立ち、ぶるるんっと身を震わせる。

『俺はナギと一緒に中に入る。スルバスは入り口で待機。三十分経っても戻らなければ、団を率いて森を出ろ』

 そう命じればスルバスの顔は色を失った。

『殿下を置いて戻ることなどできません!』
『俺にはナギがいる』

 雄々しい鬣と背に翼をもつ獣。アルディナル大公家の守護獣で、鋭い爪と雷撃で領地を魔物と瘴気から守っている。
 守護獣の加護を持つルードリックは雷撃を自在に操ることができるし、帝国最強の騎士でもある。そうそう窮地に陥ることはない。

『念のためだ。今回も何事もないよ』
『そう願います!』
『行ってくる』

 ルードリックはナギュルスを従えて、洞窟内に足を踏み入れた。
 奥に進むにつれて瘴気が濃くなり、視界が阻まれて呼吸をするたびに胸がきしむように痛む。

『グルルルル』

 ナギュルスが歯をむき出して前方を威嚇する。
< 78 / 134 >

この作品をシェア

pagetop