護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
『ナギ、どうした? ……っ!』
突如鳥肌が立つような感覚がすると同時に、暗闇から魔物たちがもっさりと現れた。ゆらゆらと近づいてくるそれらは陰のようだが実体があるようだった。
『ちっ、面倒な』
鮮やかな剣さばきと雷撃で倒すも、狭い洞窟内にも関わらず、おびただしいほどの数の魔物が出る。
まるでなにかを守っているような感じだった。
『ナギ、どうやら、期待していいようだ!』
自然に力が湧いてくる。先祖からの悲願が叶うかもしれない、その時が近づいている予感に心が震えている。
あと少し。あとわずかだ。
魔物を打ち倒し、洞窟内を駆けていった。
『ここは……?』
急に開けた場所。天井も高くて、城の大広間がすっぽり入るほどの空間があった。
『上に出口が……ドラゴンの住処……か』
ルードリックは呆然とつぶやいた。そんな彼の肩を、ナギュルスがツンと鼻でつついて、「あれ見て」と、くいっと前方を示した。
ナギュルスがじっと見つめている奥に、まがまがしい気を放つものがある。
ルードリックが近づいていくと、それは直径十センチほどの黒い玉だった。
これがドラゴンの心臓だろうか。
ルードリックはごくりと息をのみ、剣を構えて心臓に突き立てた──はずだった。突如玉から真っ黒な靄がぶわっと立ち上り視界が消える。
全身を覆うように襲い掛かってくる靄になすすべもない。ナギュルスは身を挺してルードリックを庇った。
「……そのあとの記憶がない。気づけば自室のベッドの上で、七日ほど眠り続けていたと聞かされたんだ。子どもの体になったと知ったときは夢であってほしいと願ったよ」
三十分がすぎても戻らないためスルバスが突入を決め、倒れているルードリックを見つけたという。
「ナギが目覚めるのはいつになるのか、見当もつかない」