護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
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 エリアナが目指す、ワノグニー帝国。
 若き賢帝ヘイブンが治める大陸きっての国力と兵力を備える強大な国。
 皇都は皇帝の守護獣スサノーンの加護、死の森に近い国境は大公の守護獣ナギュルスの加護で守られ、民は穏やかな暮らしを享受している。

 そんな帝国の国境にある、大公領・アルディナルの城の執務室。
 広大な領地を統治するルードリック大公殿下は、机に積まれた書類を前にため息を吐いていた。

 書類を一枚一枚確認してサインをし、必要ならば自分で書類を起こす。それだけの作業なのに、すぐに疲れてしまうのだ。
 鍛錬を積み、帝国一の騎士として皇帝から将軍の称号を受けたのは二年前のこと。
気力も体力も十分にあったというのに、たったこれしきのことで力尽きるとは、自分ながらに情けなく、ひどく苛立つのであった。

「くそっ」

 ペンを置いて悪態をつき、握りこぶしを作ってゴゴゴゴゴと怒りのオーラを放つルードリックを見かね、補佐官のセブルスが声をかける。

「殿下、休憩されたらいかがですか。温かい飲み物をお持ちしますよ」

 セブルスが執務室を出ていき、ルードリックは天井を仰いだ。

「まさか、こんなことになるとは」

 ルードリックは自分の手をじっと見つめた。
 剣を握ることができなくなった手。ペンさえも長時間持つことができない非力な手。ひと月前に死の森の洞窟で呪いを受け、このような体になってしまった。

 さらに守護獣が自分を守るために大半の呪いを請け負って眠りについてしまったため、加護の力も使えず、大公として騎士団を率いることができない。
 今も騎士たちが魔物討伐に出ているというのに、なにもできないことが歯がゆい。
 百戦錬磨の騎士団長ならば難なく討伐をこなしてくれるだろうが、この先不測の事態が起こったら、どう対応すべきか。

「殿下、飲み物とお菓子をお持ちしました」

 セブルスが戻り、ソファの前に置かれたテーブルの上にカップとお菓子を並べている。
 彩り豊かであろうマカロン、フルーツがたっぷりのせられたタルトとケーキ。その品ぞろえを見て、ルードリックはぴくっと頬を引きつらせた。

「それは誰のチョイスだ」
「乳母であり侍女長でもあるヒルダでございます。今の殿下のお口にはこちらが最善だと。甘いものは疲れが取れますし。お飲み物はココアでございますよ」
「……ココア」
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