護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!

 ちび獅子の霊体は日々しっかりとしてきている。最初は透けるように弱かったのに、黒味が増しているのだ。
 守護獣たる回復力なのだろう。

「ところでエリアナ。王国に戻り、自分の体と地位を取り戻したいか?」

 ルードリックは慎重な物言いだ。

「いえ、私は戻りたくありません」

 エリアナはナンザイ王国での役目、受けた扱い、王太子の婚約者だったことを話していく。

「だから私、まったく未練はないんです。この容姿もなじんできましたし、新しい自分に満足してるんです」

 もとは赤毛で深緑の目だったのに、今の色合いに変わったことも話した。
 眼差しの雰囲気が変わったせいか、きつめな顔立ちだったのも本来のエリアナの顔に似ている。

「ふむ、容姿が変わったのは魂の影響でしょうか。エリアナさまは、ほんとに興味が尽きませんね」

 トーイが微笑んだ背後では、拳を握ったセブルスがぶるぶると震え「そんなことより!」と叫んだ。

「こんなに素晴らしいお方をないがしろにするなど、王国の奴らは許せませんな! 殿下の大切なエリアナさまを!」

 いつも穏やかなセブルスが激しい怒りをあらわにする。

 ──えっ。

「まったくそのとおりです」

 トーイも怒りの声を上げた。

「よくも我らのエリアナさまに。聖女として敬意を表すどころか、こき使うとは。なんともひどい仕打ちをしてくれたもんです。そんな国は滅んでもかまわないでしょう」

 ひくいこえでつぶやき、杖でトンと床を叩いてふいっと手を動かした。目を細めた悪い顔でフッと笑う。

 ──はわわ……トーイさん? 今、どこに、なんの魔術を?

 エリアナの額に冷や汗が流れる。

「殿下、トーイさんが」
「エリアナさま気にしないでください。死の森の向こうに竜巻を送っただけですから」

 ──さらっととんでもないことを……。

「この俺も、ナンザイの王太子はつぶす相手だと胸に刻んでおこう」
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