護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
☆☆☆


 皇都行きが数日後に迫ったある日、子ども姿のルードリックは馬車に乗るべく庭を移動している。
 エリアナがいなければ五歳児の体力になるために長い距離の移動が難しく、馬車までの道のりもスルバスに抱かれているのだった。

「お、殿下。あそこにエリアナさまがいますよ」

 スルバスに教えられてそちらを見ると、エリアナが楽しげに小鳥と戯れていた。その姿を影獅子のビクスが木の上から見守っている。
 ビクスの任務はとっくに監視から外れて護衛に切り替わっているのだ。

 ──そういえば、ビクスは一週間で陥落していたな。

 思い出してふっと笑う。
 あんなに不器用で誠実で一生懸命な者を疑っていたとは、自分ながらに滑稽に思う。

 そしてエリアナが元聖女であり、力を搾取されるだけのひどい扱いを受けていたことを思い出して、怒りがメラメラッと湧いてくる。
 エリアナが隣にいない今は気遣う必要もない。思う存分にゴゴゴゴゴと怒りのオーラを発するから、ルードリックを抱っこしているスルバスはたまったものではない。冷や汗をたらたらと流した。

「殿下、勘弁してください」

 ──む、やりすぎたか。

 すぐに収まりそうにない怒りも、エリアナに目をむければその笑顔で温かい気持ちに変わる。これは元聖女たる魅力なのか。

「……急ごう。母上が待っている」

 馬車に乗り込んだルードリックは離れに到着し、応接室でサリナに会った。

「そう。ルードも皇都に行くんですね。アルディナルのことは任せなさい。セブルスもいますし、わたくしもいますから」
「はい、頼りにしています」

「ところで、ルード。幼い姿のあなたにこんなことを言うのは少し躊躇するのだけど」

 サリナは言いづらそうにしながらもルードリックを見つめた。

「エリアナさんを陛下に取られてはなりませんよ」
「はい。もちろんです。彼女はとても優秀な人材ですし、俺の呪いを軽減してくれる人ですから」
「そういう意味ではなくて」

 サリナは少し頬を染めて声を潜めた。
< 83 / 134 >

この作品をシェア

pagetop