護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
ルードリックの不満げな声に、セブルスはタラリと冷や汗を流しつつ微笑む。
「コーヒーはお体に悪いかと」
仕方がない。今の姿では、誰もが同じ判断をするのだろう。先日苦言を呈したミルクよりはココアのほうがまだマシだ。
「わかった」
ルードリックはスタっと執務椅子から降りた。
椅子から降りるとソファまでの距離がやけに遠く感じる。前は数歩で移動できたのに。
「殿下、その、ソファは大きいですから、お手伝いしましょうか」
遠慮がちに手を伸ばしてくるセブルスをにらむようにして見て、ふいっと顔を背ける。
「……いや、このくらい平気だ」
運動神経には自信があるのだ。こんなソファくらい、どうということはない。
てくてくとソファまで移動して、ポフンッと体を投げ出すようにして腰をかけた。
ふんっとどや顔をするものの、テーブルまでが遠く、手を伸ばすもカップまで届かない。
なんとも屈辱的である。
むむむむむ、と口をとがらせて、ちまっとした自分の手をにらんだ。
まったく、なにかもがうまくいかなくて、もどかしいことこの上ない。
「コホン……殿下、少々失礼いたします」
セブルスがテーブルをついっとソファに寄せる。
ようやく手が届いたそれらを口にし、ルードリックはほんわりと頬を緩めた。
──うまいな。
心情的には認めたくはないが、味覚と体は正直である。
甘いものがこれほどに落ち着くとは、忘れていた感覚を思い出している。そして食べればすぐに眠くなってくる。
「体に合わせた家具を手配いたしましたので、もう少々の辛抱でございます」
「そんなのは、必要……ない……」
すぐに元に戻ってみせるから……と、うとうとしていたルードリックが声に出したのかは、定かでない。