護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
「『彼女と出会って愛を知った』などとぬかして婚約を希望するのだが、さして優秀でもなく、良いところといえば『やさしい』『一生懸命でいじらしい』のみ。とうてい皇子妃にふさわしいとは思えん。それを指摘すると烈火のごとく怒るのだ」
陛下はほとほと困っている様子だ。
「子息たちの婚約者から男爵令嬢の礼儀のなさが問題視されると、あろうことか子息たちは男爵令嬢の方を庇い尊重するのだそうです。私の息子も婚約者に怒鳴ると聞いてます……このままでは婚約破棄となりかねません」
ラベル宰相は沈痛な面持ちだ。
そんな中ルードリックは男爵令嬢の身上書を凝視している。
──すごく見入ってるわ。殿下が見惚れるなんて、女同士ではわからない魅力にあふれているのかしら?
そっと覗き込んでみる。
ストレートの髪。茶色い瞳。目鼻立ちは平凡だ。どう見ても普通オブ普通の女の子にしか思えない。
──美しい令嬢ばかり目にしているから、かえって新鮮なのかも?
「はっ、まったく魅力を感じんな。コール伯爵のお香なみの呪物使用で決まりだ」
ルードリックは吐き捨てるように断言し、紙をぺいっと放った。マクスが慌ててキャッチしている。
「アカデミーは私と大公の母校でもあるゆえ、このような状態は見過ごせぬのだ。引き受けてくれるとうれしい」
「お話をうかがう限りでは呪物と断言できませんが、男爵令嬢にお会いできれば皇子殿下を篭絡される原因がわかるかもしれません」
「ふむ、エリアナは十八か。生徒としてアカデミーの潜入捜査ができるな」
「しかし子息らは令嬢に注意する女生徒を威嚇するのだろう……そんな危険な場にエリアナひとりを向かわせるのは」
ルードリックが難色を示すと「恐れながら、発言をお許しください!」とマクスが声を張り上げた。
「許す」
「はっ、私がエリアナさまとご一緒し、おまもりいたします!」
「良い覚悟だ」