護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
神獣ならば呪いが解けるのかもしれない。そう願う。
「【スサノーン、解放せよ】」
咆哮を上げて陛下の腕から飛び立ったスサノーンは天井近くまで上昇してカッと赤い光を放った。体が巨大化して翼が炎に変わる。
トーイの保護膜内に入っていても、応接室での炎騒ぎとは比較にならない炎熱がある。
それでも見惚れるほどに美しい姿だ。
「不死鳥……」
エリアナがぼそっとつぶやき、隣にいるルードリックがハッとした表情をした。
赤い光が卵にそそがれていく光景は神話の挿絵を目の当たりにしているようで、神聖な心地になる。
まもなく赤い光が消えると卵が光を放ち始め、ドクンドクンと脈打っていた。
「成功だ。よくやったスサノーン。これでナギュルスも目覚めよう」
小鳥に変わったスサノーンが陛下の腕にとまった。ヨシヨシとねぎらわれて満足そうに「クエッ」と鳴く。
それでも。
「鎖が消えないわ」
「鎖? 俺にはなにも見えないが、卵は鎖に縛られているのか?」
「はい、蛇のように卵に巻き付いています」
ちび獅子が卵からふわりと出て、エリアナのもとにやってくる。赤い瞳がまっすぐに向けられて『お願い』と訴えかけてきた。
──私にできるの?
「殿下、私、鎖をほどいてみます」
「待て。いくら解呪の力があるといっても、神獣を縛っている鎖だ。触れればきみが呪いをうけるかもしれない。危険すぎる」
「大丈夫です。ちび獅子がそばにいますから」
「しかし……」
微笑みながら、つないでいるルードリックの手をそっと外した。幼児になった彼の瞳が不安げに揺れている。
「根拠はありませんけど、できると思うんです」
「わかった。ならば俺もそばにいよう。この姿でも、ふらついたきみを支えることくらいはできる」
そう言った彼の瞳はもう揺れていない。
「私もおそばにいます!」
決意に満ちた表情のマクスが前に進み出て、トーイは全面的に補佐すると杖を鳴らした。