早河シリーズ第六幕【砂時計】
  ──京都──

 嵐山での撮影を終えた取材班一行は嵐山駅近くの右京区のホテルに宿泊していた。

 夕食後、上司の美奈子とカメラマンの沢口と写真選びや簡単な打ち合わせを済ませた金子拓哉はホテルの自室に引き上げた。

金子もなぎさも昨夜の一件は心にしまい、仕事として恋人役を演じていたが、二人の胸中には今日の夜の“約束”が眠っている。

 金子の部屋は505号室。部屋に入って彼はベッドに腰かけた。取材旅行は終わった。まだ夜の9時、今からは完全なプライベートの時間だ。

(風呂にでも入るか)

 湯気の立ち込める浴室の鏡に映るのは何かを決意した男の顔。彼女が自分を選んでくれるなら、誰よりも愛して幸せにする。

(俺ならあんな悲しい顔はさせない)

 好きな人がいると告げられた時、この恋は叶わない恋だと悟った。それでも彼女が幸せならそれでいいと思っていた……はずだった。

だけど今の彼女は悲しそうで今にも泣き出しそうで、彼女の笑顔を曇らせる男に苛立ち、嫉妬した。
それならば奪ってやろうか。もし1%でも望みがあるなら最後の悪あがきをしてみよう。


 ──部屋に来て欲しい──


彼女は来るだろうか。もし彼女が部屋に来たら絶対に手離さない。これは目に見えない男との勝負。

 金子はシャワーを頭から浴びてそっと目を閉じた。
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