早河シリーズ第六幕【砂時計】
「所長、私の仕事には興味なさそうだったのに」
{興味ないフリして裏でこっそり見てるんだよ。あれは親に隠れてエロ本読んでるむっつりスケベなガキだな。やらしい人だよね}
矢野の例え話は不思議な説得力があり、彼女は妙に納得してしまった。
「所長どうしてます?」
{荒れてる。夕方からビール飲みまくったり煙草の量も増えてたし……。さっき事務所に行ったけど早河さん居なかったんだ。酔っぱらいがふらふらとどこに行ったんだか。俺じゃ面倒見きれない}
茶化してはいても矢野も早河の荒んだ様子に参っているらしい。最後にはまた大きな溜息が聞こえた。
{なぎさちゃんが居なくなっただけで、メンタルぶっ壊れて荒れてるんだからね。自分で手離したくせにどうしようもねぇよ}
「……矢野さんどうしよう……」
{ん?}
「私が居なくなって所長、壊れちゃったんですよね?」
無意識に胸元に手を当てる。鼓動の大きさ、速さを確かに感じた。
{うん、もう破滅的にね}
「それってすごく嬉しいかも。あ、飲み過ぎや煙草の量が増えるのは心配なんです。でも私が居なくなって壊れちゃったことが、その……」
今度は火照った頬に手を当てる。電話の向こうでは矢野が大笑いしていた。
{あーあ。ノロケちゃってさー。ご馳走さま。二人ともお互いの前では素直じゃないよねぇ}
「え?」
{取材旅行から帰ってくるの明日だよね?}
「はい。明日の夕方には東京に着きます」
{じゃあその足で早河さんに会いに行ってやって。で、その場で告っちゃいな}
「ええっ! 告白って……」
さらに顔が熱くなった。そうすると、明日の今頃には早河に告白していることになる。
{あの鈍感探偵には正面からぶつかるのが一番だよ。早河さんもなぎさちゃんも……亡くなった香道さんのこと気にしてるけど、周りが何と言おうと好きなものは好き、それでいいじゃん?}
「……はい」
火照った頬に涙が流れる。矢野のおかげで決心がついた。
しばらく彼と談笑して通話を終えたなぎさは、ルームキーを手にして部屋を出た。
揺らぎのない気持ちを伝えるために向かった先は金子の部屋の505号室。ノックをするとすぐに扉が開いて部屋着に着替えた金子が現れた。
シャワーを浴びた後のようで、金子からは石鹸の香りがする。
『何か飲む?』
側の冷蔵庫を開いて金子は缶ビールを出した。なぎさは閉じた扉を背にしてかぶりを振る。
{興味ないフリして裏でこっそり見てるんだよ。あれは親に隠れてエロ本読んでるむっつりスケベなガキだな。やらしい人だよね}
矢野の例え話は不思議な説得力があり、彼女は妙に納得してしまった。
「所長どうしてます?」
{荒れてる。夕方からビール飲みまくったり煙草の量も増えてたし……。さっき事務所に行ったけど早河さん居なかったんだ。酔っぱらいがふらふらとどこに行ったんだか。俺じゃ面倒見きれない}
茶化してはいても矢野も早河の荒んだ様子に参っているらしい。最後にはまた大きな溜息が聞こえた。
{なぎさちゃんが居なくなっただけで、メンタルぶっ壊れて荒れてるんだからね。自分で手離したくせにどうしようもねぇよ}
「……矢野さんどうしよう……」
{ん?}
「私が居なくなって所長、壊れちゃったんですよね?」
無意識に胸元に手を当てる。鼓動の大きさ、速さを確かに感じた。
{うん、もう破滅的にね}
「それってすごく嬉しいかも。あ、飲み過ぎや煙草の量が増えるのは心配なんです。でも私が居なくなって壊れちゃったことが、その……」
今度は火照った頬に手を当てる。電話の向こうでは矢野が大笑いしていた。
{あーあ。ノロケちゃってさー。ご馳走さま。二人ともお互いの前では素直じゃないよねぇ}
「え?」
{取材旅行から帰ってくるの明日だよね?}
「はい。明日の夕方には東京に着きます」
{じゃあその足で早河さんに会いに行ってやって。で、その場で告っちゃいな}
「ええっ! 告白って……」
さらに顔が熱くなった。そうすると、明日の今頃には早河に告白していることになる。
{あの鈍感探偵には正面からぶつかるのが一番だよ。早河さんもなぎさちゃんも……亡くなった香道さんのこと気にしてるけど、周りが何と言おうと好きなものは好き、それでいいじゃん?}
「……はい」
火照った頬に涙が流れる。矢野のおかげで決心がついた。
しばらく彼と談笑して通話を終えたなぎさは、ルームキーを手にして部屋を出た。
揺らぎのない気持ちを伝えるために向かった先は金子の部屋の505号室。ノックをするとすぐに扉が開いて部屋着に着替えた金子が現れた。
シャワーを浴びた後のようで、金子からは石鹸の香りがする。
『何か飲む?』
側の冷蔵庫を開いて金子は缶ビールを出した。なぎさは閉じた扉を背にしてかぶりを振る。