早河シリーズ第六幕【砂時計】
第三章 失速の交差点
11月10日(Tue)午前0時30分
ここには愛も優しさも思いやりもない。あるのは利害の一致と甘さとは程遠い快楽。
彼女は自分の身体の上にいるケルベロスを見上げた。彼の鍛え上げられた逞しい胸元に汗が滲み、彼の肌を妖しく湿らせている。
繋がれた手は温かいが、それは生きている人間の体温というだけのこと。この男から温もりなど感じない。
うつ伏せになった彼女の背後から獰猛な獣の昂《たかぶ》りが侵入してくる。両手で腰を拘束され、彼の体重をかけられた彼女は逃げることも許されず、男と女の接続部に加えられる乱暴な刺激に堪えた。
彼女は枕に顔を埋めて感情の宿らない瞳を閉じた。暴力的な快楽は加速度を増して、冷える心とは反対に身体は熱を帯びていく。
どうしてこうなったのか、なぜ自分はこんな場所にいてこんな男と身体を重ねているのか、そんなこと、もはや自分自身に問うのも疲れた。
彼女には何もない。何も残っていない。
差し出せるのは身体だけ、だからこうなった。
すべてを終えて彼女の身体を離れたケルベロスはテーブルに置かれたミネラルウォーターを一気に飲み干し、彼の裸体は浴室に消えた。
彼女はケルベロスが吐き出した欲望の塊の処理をする。腹部から太ももにかけてべったりと付着したそれを拭き取るのに、ティッシュを何枚消費したかわからない。
手が精液の臭いにまみれて不快だった。
ケルベロスは避妊具を使用しない。誰に対してもそうなのか、自分だけがこんな扱いなのか、そんなことを考えるのも疲れる。
「……はぁ」
短い溜息をついた彼女はシーツを手繰り寄せて、まだ快楽の余韻で疼く身体を抱き込むようにベッドに寝そべった。
下半身の奥がひりひりと痛かった。あんなに乱暴に扱われたら、どこかが裂けているかもしれない。
ケルベロスはシャワーを浴び終えたらこの部屋を出ていくだろう。彼と夜を過ごしても、共に朝を迎えたことはない。
こちらもそんな甘ったるいものを彼に望んでもいないが。
「もうすぐ……もうすぐだから」
固く握り締めた拳は決意の現れ。もうすぐ始まり、そして終わる。
ここには愛も優しさも思いやりもない。あるのは利害の一致と甘さとは程遠い快楽。
彼女は自分の身体の上にいるケルベロスを見上げた。彼の鍛え上げられた逞しい胸元に汗が滲み、彼の肌を妖しく湿らせている。
繋がれた手は温かいが、それは生きている人間の体温というだけのこと。この男から温もりなど感じない。
うつ伏せになった彼女の背後から獰猛な獣の昂《たかぶ》りが侵入してくる。両手で腰を拘束され、彼の体重をかけられた彼女は逃げることも許されず、男と女の接続部に加えられる乱暴な刺激に堪えた。
彼女は枕に顔を埋めて感情の宿らない瞳を閉じた。暴力的な快楽は加速度を増して、冷える心とは反対に身体は熱を帯びていく。
どうしてこうなったのか、なぜ自分はこんな場所にいてこんな男と身体を重ねているのか、そんなこと、もはや自分自身に問うのも疲れた。
彼女には何もない。何も残っていない。
差し出せるのは身体だけ、だからこうなった。
すべてを終えて彼女の身体を離れたケルベロスはテーブルに置かれたミネラルウォーターを一気に飲み干し、彼の裸体は浴室に消えた。
彼女はケルベロスが吐き出した欲望の塊の処理をする。腹部から太ももにかけてべったりと付着したそれを拭き取るのに、ティッシュを何枚消費したかわからない。
手が精液の臭いにまみれて不快だった。
ケルベロスは避妊具を使用しない。誰に対してもそうなのか、自分だけがこんな扱いなのか、そんなことを考えるのも疲れる。
「……はぁ」
短い溜息をついた彼女はシーツを手繰り寄せて、まだ快楽の余韻で疼く身体を抱き込むようにベッドに寝そべった。
下半身の奥がひりひりと痛かった。あんなに乱暴に扱われたら、どこかが裂けているかもしれない。
ケルベロスはシャワーを浴び終えたらこの部屋を出ていくだろう。彼と夜を過ごしても、共に朝を迎えたことはない。
こちらもそんな甘ったるいものを彼に望んでもいないが。
「もうすぐ……もうすぐだから」
固く握り締めた拳は決意の現れ。もうすぐ始まり、そして終わる。