早河シリーズ第六幕【砂時計】
香澄は早河によくなついていた。家族と精神的に距離のある彼女は早河を実の兄のように慕っている。
香澄が早河を兄と慕うなら、早河にとって香澄は妹のような存在だ。
早河が刑事を辞めて探偵になった際も、香澄は自分にできることなら何でもすると言ってくれた。
香澄には昔のツテで夜の世界の知り合いが多く、顔も広い。情報収集を頼む相手には適任だった。
危険なことはさせられなくとも、香澄が掴んでくれた情報は大いに役立つ。昨年12月に高山有紗の家出捜索依頼を受けた時も、有紗の居所の情報を提供してくれたのは香澄だった。
「……ぁ……仁くん。おはよぉ」
『おはよ』
寝起きでとろんとした目をこすって香澄は起き上がった。ベッドを降りた香澄は早河の隣に体育座りする。
「昨日、うちのお店で飲んでてすごい酔ってたから、べろべろの酔っぱらいの仁くんをここまで運んでくるの大変だったんだよぉ」
『あー……悪い。そうだよな。お前の店で飲んでて……うん、そこまでは覚えてるんだけど、なぁ香澄』
「なぁに?」
早河は香澄が差し出してくれた灰皿に灰を落として溜息をついた。
『その……俺さ、お前に手を出したりしてないよな?』
気まずく煙草を咥えて香澄から目をそらす。途端に彼女が早河の膝の上に跨がって抱き付いた。
『香澄? おい、危ねぇ……煙草が……』
「何もなかったよ」
煙草を床に落としそうになって慌てる早河の耳元で香澄が囁いた。
『はぁ。そっか、それならいいんだ』
「よくない!」
『は?』
「私はいつでもいいのに……。酔っぱらって襲いかかってきたって仁くんになら私、襲われてもいいのに」
香澄の声は消え入りそうに小さい。早河は床に置いた灰皿に煙草を捨て、胸元にいる香澄の顔を覗き見た。
化粧をしていない素顔の香澄の目から涙が流れていた。彼女の目から溢れる涙を指で拭ってやる。
『これってごめんと謝るべき? お前と何もなかったって聞いて俺はホッとしてるんだけど』
「もう! 変な人。女の部屋に来て女と一緒に朝まで寝てたのに何もなかったって聞いたら普通は惜しいことしたって思うでしょっ」
口を尖らせた香澄が不満げに早河の頬をつねる。彼はつねられた痛みに顔をしかめた。
『痛っ……。しょうがねぇだろ。香澄は妹みたいなもんなんだから』
「妹ね。仁くんって、さらっと酷いこと言うよね」
彼女は着ていたパジャマのボタンを外し始めた。
香澄が早河を兄と慕うなら、早河にとって香澄は妹のような存在だ。
早河が刑事を辞めて探偵になった際も、香澄は自分にできることなら何でもすると言ってくれた。
香澄には昔のツテで夜の世界の知り合いが多く、顔も広い。情報収集を頼む相手には適任だった。
危険なことはさせられなくとも、香澄が掴んでくれた情報は大いに役立つ。昨年12月に高山有紗の家出捜索依頼を受けた時も、有紗の居所の情報を提供してくれたのは香澄だった。
「……ぁ……仁くん。おはよぉ」
『おはよ』
寝起きでとろんとした目をこすって香澄は起き上がった。ベッドを降りた香澄は早河の隣に体育座りする。
「昨日、うちのお店で飲んでてすごい酔ってたから、べろべろの酔っぱらいの仁くんをここまで運んでくるの大変だったんだよぉ」
『あー……悪い。そうだよな。お前の店で飲んでて……うん、そこまでは覚えてるんだけど、なぁ香澄』
「なぁに?」
早河は香澄が差し出してくれた灰皿に灰を落として溜息をついた。
『その……俺さ、お前に手を出したりしてないよな?』
気まずく煙草を咥えて香澄から目をそらす。途端に彼女が早河の膝の上に跨がって抱き付いた。
『香澄? おい、危ねぇ……煙草が……』
「何もなかったよ」
煙草を床に落としそうになって慌てる早河の耳元で香澄が囁いた。
『はぁ。そっか、それならいいんだ』
「よくない!」
『は?』
「私はいつでもいいのに……。酔っぱらって襲いかかってきたって仁くんになら私、襲われてもいいのに」
香澄の声は消え入りそうに小さい。早河は床に置いた灰皿に煙草を捨て、胸元にいる香澄の顔を覗き見た。
化粧をしていない素顔の香澄の目から涙が流れていた。彼女の目から溢れる涙を指で拭ってやる。
『これってごめんと謝るべき? お前と何もなかったって聞いて俺はホッとしてるんだけど』
「もう! 変な人。女の部屋に来て女と一緒に朝まで寝てたのに何もなかったって聞いたら普通は惜しいことしたって思うでしょっ」
口を尖らせた香澄が不満げに早河の頬をつねる。彼はつねられた痛みに顔をしかめた。
『痛っ……。しょうがねぇだろ。香澄は妹みたいなもんなんだから』
「妹ね。仁くんって、さらっと酷いこと言うよね」
彼女は着ていたパジャマのボタンを外し始めた。