早河シリーズ第六幕【砂時計】
 早めの昼食を済ませた早河はその足で地下鉄の四谷三丁目駅に向かった。気候は11月でも、暖かい日差しの下を歩いていると少し汗ばむ。

 Edenのマスターの田村克典は18年前にライフル射撃の世界大会で日本人初の優勝に輝いた元自衛隊員だ。15年前に彼は自衛隊を除隊、以降の経歴は不明。

早河は“ある筋”から田村が犯罪組織カオスのスナイパー、スコーピオンであるとの情報を入手していた。情報の信用度は武田財務大臣が言うには五分五分。
提供された情報を信用するには確実な証拠集めが必要となる。

(Edenがあそこにオープンしたのは去年の春。俺を監視する目的であの場所を選んだのかもしれない。出資者は貴嶋だな)

 今日の昼食時間は田村との腹の探り合いの時間。こちらの手の内を明かさず如何《いか》に彼に揺さぶりをかけられるか。
揺さぶりの手応えはまずまず。もし田村がスコーピオンならばそう簡単には尻尾を出さないだろう。

 早河は東京メトロ丸ノ内線、四谷三丁目駅の構内に入る。駅事務所で上野警部が待っていた。上野の隣にはスーツの男が立っている。

『公安部の栗山警部補だ』

上野の紹介を受けて栗山が早河に警察手帳を見せた。早河は彼の身分証を一瞥する。

『栗山さんのことは矢野から聞いてますよ。今度はビジネスの話は抜きにして酒を飲みに行きたいと矢野が言っていました』
『考えておこう』

ぶっきらぼうに返事をした栗山は警察手帳を懐にしまい、早河に向けて頭を垂らした。

『それよりもすまなかった。香道なぎさの警護の必要性は矢野から忠告されていたにも関わらず、こちらは万全な警護が出来なかった』
『栗山さんが謝ることはないですよ。あいつを守りきれなかった俺の責任です』

 早河は駅員が再生してモニターに映した昨日の防犯カメラ映像を凝視する。

『時間帯は昨日の16時20分頃から17時までの間、東京駅方面から来る電車の到着映像を流してください』
『わかりました』

 早河の指示に従い駅員が防犯カメラの映像を切り替える。昨日の午後4時から午後5時までの1番線ホームの映像が映っている。
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