早河シリーズ第六幕【砂時計】
 上野と栗山も後方から映像を見ていた。

『なぎさちゃんの服装はわからないんだよな?』
『はい。でも旅行の帰りですからキャリーバッグは持っているはずです。いつも使っている物だとしたら赤色のキャリーバッグです』

 数分置きに到着する列車から降りる乗客の映像を、一時停止したり巻き戻したりしてなぎさの姿を捜す。目印は赤のキャリーバッグ。

 列車を降りた乗客の波からなぎさを見つけることは容易ではない。そろそろ誰もが目の疲れを感じてきた頃にまた列車が到着した。映像記録時間は16時40分。

 早河が身を乗り出した。駅員に一時停止してもらった画面を食い入るように見つめて彼はある女性を指差した。

『赤のキャリーバッグ……なぎさかもしれません。背格好も似ています』

駅員がスローモードにして再生ボタンを押した。なぎさと思われる女性の後ろには携帯を手にした女がいる。映像を見ていた上野が一時停止の指示を出した。

『この歩きながら携帯を見ている女……気になるな』
『黒髪のセミロング……』

 携帯の女は黒髪で長さは肩より下のセミロングだった。赤色のキャリーバッグの女と黒髪の女は改札を出て3番出口に向かっていった。

 早河の携帯がメールの着信を告げる。差出人は高木涼馬、メールに綴られた文は一行だけ。
〈この女で間違いないです〉その一行には早河となぎさの絶望が集約されている。

家に保管してあった香道秋彦と共に写る桐原恵の写真を携帯のカメラで撮影して、それを高木にメールで送信した。その答えがこのメールだ。
月曜日の夜にバーでケルベロスと思わしき人物と会っていた女は桐原恵で間違いない。

 メールを見た早河は駅員に防犯カメラ映像の保存を頼んで上野と栗山を連れて駅事務所を出た。通路の片隅に移動した早河は二人にこの一件を報告する。

栗山の無表情な顔つきは変わらないが、上野は大きな溜息を吐いた。

『香道の婚約者を被疑者として追うことになるとはな……』

上野の呟きは早河の心の叫びそのものだった。
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