早河シリーズ第六幕【砂時計】
 なぎさは部屋の隅で壁に背をつけて座っていた。食事とトイレの時だけ手足を縛る紐は解かれるが、用が済めばまた手足を拘束されて部屋に閉じ込められる。

 部屋の中には誰もいない。しかし部屋を出た通路には大柄な男が何人もいて逃げ出すことは困難だった。

冷えないようにと身体に毛布をかけてくれたのは恵だ。なぎさの身体を気遣う優しさはまだ彼女に残っている。それが救いだった。

 部屋を出ていた恵が戻ってきた。

「もうすぐ早河さんがここに来るよ」
「恵さんお願い。こんなこともう止めて……」

なぎさの哀願も恵は聞き入れない。彼女はコートのポケットから拳銃を出した。
恵の手にある重々しい武器を見て血の気が引く。

「ごめんなさい。私もね、どうしたらいいのかわからないの」

 窓の外から漏れる光に照らされた殺風景な部屋。エアコンの室外機の音が耳障りなほどよく聞こえる静寂さで、二人の女の想いが交差した。
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