早河シリーズ第六幕【砂時計】
先週と今週に立て続けに殺害された被害者の大山と藤井はいずれも傷害と窃盗の前科を持ち、刑期を終えて出所したばかりだった。
殺された二人に接点はなく服役していた刑務所も違うが、二人とも出所後は保護司の紹介した職場での就職が決まっていた。
一見接点のない大山と藤井には二点だけ共通点が見つかった。ひとつはどちらも拳銃で心臓や頭を撃たれ、二人の体内に残されていた弾は9ミリパラベラム弾だった。
もうひとつの共通点は大山と藤井を逮捕した警察官が同じだったこと。二人とも4年前と3年前に同じ刑事に逮捕されている。
その刑事の名前は……早河仁。
*
前科者を狙った連続殺人の疑いも視野に入れて午後6時に警視庁で捜査会議が開かれた。
会議室にズラリと並ぶ長机の席に小山真紀と原昌也は隣同士で腰掛けた。
「早河さんが逮捕した前科者が立て続けに殺されるって偶然でしょうか?」
『偶然にしては出来すぎだよな。弾の種類も一致してる。大山と藤井を殺したホシは同一人物だ』
原は頬杖をついて退屈そうに捜査資料の束を眺めている。
会議が始まり、早河元刑事が過去に逮捕した被疑者で現在服役を終えている前科者をリストアップするべきだとの意見が出た。議題の焦点がそこに向けられた時、会議室に男が入ってきた。
「あっ……」
真紀が小さく呟いた。隣の原は眉を寄せて前を見ている。
会議室前方の扉から堂々と入ってきたのは藤井剛の死体発見現場で見かけた原と同期の警察庁所属の阿部。
彼は捜査本部の責任者が並ぶ長机の横に立った。会議室にいる刑事達の視線が一斉に阿部に向く。
『警察庁の阿部と申します。この事件は今後、警察庁の指揮下で捜査を行っていただきます』
会議室内がどよめいた。困惑する真紀は前列斜めにいる上野恭一郎の表情を盗み見る。彼は口を固く結んで阿部を見据えていた。
『おいっ! どうして警察庁が出て来るんだ? これは警視庁のヤマだぞ。警察庁の出る幕じゃねぇ!』
立ち上がり怒声をあげる年配刑事を阿部は鋭い眼光でねめつけた。
『この事件は国家公安委員会から正式に警察庁の案件として処理するよう通達が出ている。くだらない縄張り意識は捨ててもらいますか?』
阿部は長机に腰掛けて長い脚を組んだ。その横柄な態度がこの場にいる刑事の反感を買うことも彼は計算済みなのではないかと真紀は感じた。
『チッ。国家公安委員会まで出てきたか。このヤマ、ただの前科者を狙った連続殺人ってわけでもなさそうだな』
原の舌打ちが隣から聞こえた。阿部の登場によって原の虫の居所が悪くなったことは彼の表情を見れば一目瞭然だった。
『俺はこの事件の全指揮権を委任されている。今後の捜査はすべて俺の指示に従ってもらう』
警察庁のエリートのイメージには不似合いな粗野な口調で言い放った阿部は長机の左端の席に座った。
殺された二人に接点はなく服役していた刑務所も違うが、二人とも出所後は保護司の紹介した職場での就職が決まっていた。
一見接点のない大山と藤井には二点だけ共通点が見つかった。ひとつはどちらも拳銃で心臓や頭を撃たれ、二人の体内に残されていた弾は9ミリパラベラム弾だった。
もうひとつの共通点は大山と藤井を逮捕した警察官が同じだったこと。二人とも4年前と3年前に同じ刑事に逮捕されている。
その刑事の名前は……早河仁。
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前科者を狙った連続殺人の疑いも視野に入れて午後6時に警視庁で捜査会議が開かれた。
会議室にズラリと並ぶ長机の席に小山真紀と原昌也は隣同士で腰掛けた。
「早河さんが逮捕した前科者が立て続けに殺されるって偶然でしょうか?」
『偶然にしては出来すぎだよな。弾の種類も一致してる。大山と藤井を殺したホシは同一人物だ』
原は頬杖をついて退屈そうに捜査資料の束を眺めている。
会議が始まり、早河元刑事が過去に逮捕した被疑者で現在服役を終えている前科者をリストアップするべきだとの意見が出た。議題の焦点がそこに向けられた時、会議室に男が入ってきた。
「あっ……」
真紀が小さく呟いた。隣の原は眉を寄せて前を見ている。
会議室前方の扉から堂々と入ってきたのは藤井剛の死体発見現場で見かけた原と同期の警察庁所属の阿部。
彼は捜査本部の責任者が並ぶ長机の横に立った。会議室にいる刑事達の視線が一斉に阿部に向く。
『警察庁の阿部と申します。この事件は今後、警察庁の指揮下で捜査を行っていただきます』
会議室内がどよめいた。困惑する真紀は前列斜めにいる上野恭一郎の表情を盗み見る。彼は口を固く結んで阿部を見据えていた。
『おいっ! どうして警察庁が出て来るんだ? これは警視庁のヤマだぞ。警察庁の出る幕じゃねぇ!』
立ち上がり怒声をあげる年配刑事を阿部は鋭い眼光でねめつけた。
『この事件は国家公安委員会から正式に警察庁の案件として処理するよう通達が出ている。くだらない縄張り意識は捨ててもらいますか?』
阿部は長机に腰掛けて長い脚を組んだ。その横柄な態度がこの場にいる刑事の反感を買うことも彼は計算済みなのではないかと真紀は感じた。
『チッ。国家公安委員会まで出てきたか。このヤマ、ただの前科者を狙った連続殺人ってわけでもなさそうだな』
原の舌打ちが隣から聞こえた。阿部の登場によって原の虫の居所が悪くなったことは彼の表情を見れば一目瞭然だった。
『俺はこの事件の全指揮権を委任されている。今後の捜査はすべて俺の指示に従ってもらう』
警察庁のエリートのイメージには不似合いな粗野な口調で言い放った阿部は長机の左端の席に座った。