早河シリーズ第六幕【砂時計】
メリーゴーランドの柵の外に連れ出された原が真紀を一瞥した。
『小山ぁ。お前はいつから俺の正体に気付いていた?』
「昨日、公安の刑事から聞かされるまでは私も知りませんでした。早河さんや上野警部はあなたと行動を共にしている私にはあなたの正体を隠していましたから」
なぎさを連れて原の横を素通りした真紀は早河になぎさを託す。無言で抱き合う早河となぎさを見て原が笑い出した。
『愛情ごっこか。くだらねぇ。早河、いいこと教えてやる。2年前、お前がキングに呼び出されたあの場所に香道がいることをキングに教えたのは俺だ。余分なネズミが一匹紛れ込んでいるってね。香道も馬鹿な奴だよなぁ。お前を庇えば自分が死んじまうのに。香道のああいう熱血漢なとこが目障りだったんだ』
原の不愉快な笑い声になぎさは耳を塞いだ。なぎさを片手で抱き締める早河も悔しげに原を睨み、婦人警官に支えられて立っていた恵は声を上げて泣き崩れた。
これが2年前の真相。なぎさの兄、香道秋彦の死は多くの人間の人生を変え、苦しめ続けてきた。
原の拘束が阿部から他の刑事に代わり、連行される原の前に真紀が立ち塞がる。真紀は平手で原の頬を打った。
乾いた音が鳴り響いて誰もが原と真紀に視線を向ける。
『……先輩を殴るとはいい度胸だな』
「今さら先輩面しないでください。これは香道秋彦を慕うすべての人間の怒りです。僭越《せんえつ》ながら私が代表して一発やらせていただきましたが、お望みならもう一発いきましょうか?」
『愛情ごっこの次は正義のヒーローごっこか』
「あなたには私達の痛みや悲しみは一生わかりません」
阿部が真紀の肩に手を置く。真紀は一歩下がって道を開けた。
『これで終わりだと思うなよ。幕はまだ上がったばかりだからな』
不吉な言葉を言い残して犯罪組織カオスのケルベロス、原昌也は連行された。
『小山刑事。君は桐原恵を頼む。これは君の仕事だ』
「はい」
阿部の指示を受けた真紀が恵に手錠をかけた。先輩刑事の香道秋彦の婚約者に手錠をかける……これが刑事である真紀の仕事。
「小山さん。あなた、いい刑事さんになったね」
「できることなら桐原さんに手錠をかけたくはなかったです」
悲しく笑い合う恵と真紀。恵は早河となぎさに歩み寄り、頭を下げた。
「早河さん、なぎさちゃん。ごめんなさい。秋彦は命を懸けて早河さんを守ったのに私は今までそのことを受け入れられずにいた。ケルベロスの口車に乗せられてなぎさちゃんをこんな目に遭わせちゃった……」
「恵さん……お義姉ちゃん……」
なぎさにお義姉ちゃんと呼ばれた恵の目から大粒の涙が溢れる。泣いている恵を、泣いているなぎさが抱き締めた。
「まだ私をお義姉ちゃんだと思ってくれるの?」
「当たり前だよ。だってお兄ちゃんのお嫁さんなんだから……私達の家族だから……」
「ありがとう……」
なぎさから離れた恵は早河に微笑みかける。
「早河さん。秋彦の仇、必ずとってね。なぎさちゃんのことも……お願いね」
『はい』
早河が深々と恵に頭を下げる。
『小山ぁ。お前はいつから俺の正体に気付いていた?』
「昨日、公安の刑事から聞かされるまでは私も知りませんでした。早河さんや上野警部はあなたと行動を共にしている私にはあなたの正体を隠していましたから」
なぎさを連れて原の横を素通りした真紀は早河になぎさを託す。無言で抱き合う早河となぎさを見て原が笑い出した。
『愛情ごっこか。くだらねぇ。早河、いいこと教えてやる。2年前、お前がキングに呼び出されたあの場所に香道がいることをキングに教えたのは俺だ。余分なネズミが一匹紛れ込んでいるってね。香道も馬鹿な奴だよなぁ。お前を庇えば自分が死んじまうのに。香道のああいう熱血漢なとこが目障りだったんだ』
原の不愉快な笑い声になぎさは耳を塞いだ。なぎさを片手で抱き締める早河も悔しげに原を睨み、婦人警官に支えられて立っていた恵は声を上げて泣き崩れた。
これが2年前の真相。なぎさの兄、香道秋彦の死は多くの人間の人生を変え、苦しめ続けてきた。
原の拘束が阿部から他の刑事に代わり、連行される原の前に真紀が立ち塞がる。真紀は平手で原の頬を打った。
乾いた音が鳴り響いて誰もが原と真紀に視線を向ける。
『……先輩を殴るとはいい度胸だな』
「今さら先輩面しないでください。これは香道秋彦を慕うすべての人間の怒りです。僭越《せんえつ》ながら私が代表して一発やらせていただきましたが、お望みならもう一発いきましょうか?」
『愛情ごっこの次は正義のヒーローごっこか』
「あなたには私達の痛みや悲しみは一生わかりません」
阿部が真紀の肩に手を置く。真紀は一歩下がって道を開けた。
『これで終わりだと思うなよ。幕はまだ上がったばかりだからな』
不吉な言葉を言い残して犯罪組織カオスのケルベロス、原昌也は連行された。
『小山刑事。君は桐原恵を頼む。これは君の仕事だ』
「はい」
阿部の指示を受けた真紀が恵に手錠をかけた。先輩刑事の香道秋彦の婚約者に手錠をかける……これが刑事である真紀の仕事。
「小山さん。あなた、いい刑事さんになったね」
「できることなら桐原さんに手錠をかけたくはなかったです」
悲しく笑い合う恵と真紀。恵は早河となぎさに歩み寄り、頭を下げた。
「早河さん、なぎさちゃん。ごめんなさい。秋彦は命を懸けて早河さんを守ったのに私は今までそのことを受け入れられずにいた。ケルベロスの口車に乗せられてなぎさちゃんをこんな目に遭わせちゃった……」
「恵さん……お義姉ちゃん……」
なぎさにお義姉ちゃんと呼ばれた恵の目から大粒の涙が溢れる。泣いている恵を、泣いているなぎさが抱き締めた。
「まだ私をお義姉ちゃんだと思ってくれるの?」
「当たり前だよ。だってお兄ちゃんのお嫁さんなんだから……私達の家族だから……」
「ありがとう……」
なぎさから離れた恵は早河に微笑みかける。
「早河さん。秋彦の仇、必ずとってね。なぎさちゃんのことも……お願いね」
『はい』
早河が深々と恵に頭を下げる。