早河シリーズ第六幕【砂時計】
 スカイランドから数㎞離れた西東京市のホームセンターの駐車場に黒いワゴン車が停まっている。
駐車場の横を救急車とパトカーが連なって通り過ぎた。サイレンの音が耳障りだった。

『ケルベロスをあのままにしておいてよろしいのですか?』

 運転席にいるスコーピオンは助手席に置かれたノートパソコンの映像を観ていた。
画面にはスカイランドのリアルタイム映像が流れている。スカイランドの随所に仕掛けたカメラから送られている映像だ。

『構わない。手は打ってある』

後部座席で脚を組んで座る貴嶋佑聖の膝の上にもノートパソコンが載せられ、助手席のパソコンと同じ映像が流れていた。

貴嶋は携帯電話の着信履歴からある番号を選択した。通話相手はすぐに電話に出た。

『私だ。直にケルベロスがそちらに到着する。後は頼むよ』
{承知いたしました}
『それと警察庁の阿部と公安の栗山……あの二人は目障りだ。君の方で処理しなさい』
{申し訳ありません。阿部に関しては向こうのガードが固いもので……}
『阿部は警察庁……いや、国家公安委員会のホープだからねぇ。しかし栗山は君の管理下だろう? 宜しく頼むよ、笹本警視総監』

 貴嶋は相手の名前を役職をつけて呼んだ。
笹本警視総監は貴嶋に何度も謝罪の言葉を述べている。
最後は鬱陶しくなり、笹本との通話を切った彼は溜息をついて煙草を咥えた。高級なライターで火が灯される。

『笹本もせっかく門倉《かどくら》の後任に据えてやったのに、期待はずれな働きしかしないものだねぇ』
『あの男は所詮は二流の操り人形ですから』
『もっと出来のいい人形かと思っていたよ。残念だ』

 貴嶋は細く紫煙を吐き出してパソコン画面を見下ろした。早河仁が香道なぎさに支えられて救急車に乗り込む映像が流れる。

『……だが早河くんには面白いものを見せてもらった。とても愉快だ。彼の勇姿に敬意を表して今回はこれでよしとしよう』


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