早河シリーズ第六幕【砂時計】
 メールの差出人は同業の女優、本庄玲夏。彼女からの新着メールを流し読みして黒崎は携帯を置いた。

「悪戯《イタズラ》を思い付いた子どもみたいな顔ね」
『そうですか?』
「うーん。でも何か違うかな。悪戯を企む子どもよりも、女を騙す悪い男の顔ってところかしら?」
『酷いな。俺はそこまで女泣かせではありませんよ?』

 ソファーに座る黒崎の傍らに莉央が寄り添った。黒崎は莉央の髪を撫で、彼女の額や頬、耳元に順にキスをした。

「ねぇ、ラストクロウの変装用の三浦英司のマスク……また腕を上げたようだけど、やけに凝った造りよね。誰かモデルがいるの?」
『ああ、あれですか。そう、あのマスクにはモデルがいますよ』

 大きなソファーの上に莉央の身体が倒された。莉央のバスローブの胸元がはだけ、覗いた白い肌を眩しそうに見つめて彼は呟く。

『三浦のマスクは俺の高校時代の友人がモデルになっています。世間では自殺したことになっている俺の数少ない友人の……ね』
「ふふ。そのお話はキングに聞いたことがある。それって、本当はあなたが殺したお友達のことでしょう?」

黒崎は肯定も否定もしない。彼は穏やかな笑みを莉央に向けて、自分のバスローブを脱いだ。鍛え上げられた男の体が莉央に重なり、彼女のバスローブも下に落ちる。

 首筋から胸へ、そして開かれた陰部へ、黒崎の莉央への愛撫は加速して止まらない。

莉央の陰部から顔を上げた黒崎の視界に入ったのは、テーブルに置き去りにされた鳴らない携帯電話。それを一瞥して彼はまた莉央の身体に身も心も沈めた。

『ゲームってゲームの最中よりもゲームが始まる前の方が楽しかったりしますよね』
「それなら今がその楽しい時かもしれないわね」

 完璧に均整のとれた裸体を晒してソファーに横たわる莉央は、窓の向こうに見える暗闇に浮かぶ東京タワーに目を細めた。

「もうすぐ……始まるから」



 第五章 END
 →エピローグに続く
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