Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

七の秘剣・文綾(あや)の星

「使命感…」
 シリウスはその言葉は反芻した。そして苦笑する。そんな真面目くさった言葉は無縁だと思っていたからだ。魚釣り星を修得した時から感じたこの高揚感は使命感だったのか……。
「スピカちゃん、ご苦労様。もうよかろう」
 そう言ってスピカが持っていた石を取った。
「ここからはわしが代わろう」
 アルクトゥルスはその石を捨て、代わりに短剣を取り出した。
「ただし、1回だけだぞ」
 シリウスに向き直ると、アルクトゥルスは急に殺気を剥き出しにした。
「この短剣をお前の顔に投げつける。失敗したらどうなるか分かるな?」
 シリウスの頬に冷や汗が流れる。怪我どころじゃすまない。
「ちょ、アルクトゥルスさん、やめて! そんなことしたら…!」
 スピカが止めようとしたが
「やってくれ、師匠」
 シリウスは構えた。これまで失敗してきたのは覚悟が足りなかったのかもしれない。この技を修得するには、もはや命をかけるしかない。
「いくぞ!」
 アルクトゥルスは短剣を投げつけた。その切っ先がまっすぐにシリウスの顔面に向かっていく。スピカは見ていられないとばかりに両手で目を抑えた。
「七の秘剣…」
 剣が光り、シリウスを包むように空気の流れが変わった。
「文綾(あや)の星!」
 短剣はシリウスに刺さる手前ではじけ飛んだ。
 手で目を覆っていたスピカはおそるおそる目を開く。すると、そこには無事なシリウスがいた。
「やった…成功だ!」
 シリウスは思わず拳を天に向けて突き上げた。これで全ての秘剣を修得したのだ。
「シリウス!」
 スピカは駆け寄り、シリウスに抱きついた。
「よかった…よかったあ!!」
 目から大粒の涙を流して泣き始めた。何より無事だったのがうれしかったのだ。
「あなたが無事でよかった…」
「スピカ…」
 シリウスはスピカの頭を優しくなでた。美しい髪が風に揺れる。初めて話した時はお互いに険悪だったのに、今ではミラとともに一番応援してくれる存在となっている。
「ありがとう」
「うん」
 コホン、と咳がした。アルクトゥルスの前だったことを思い出し、顔を赤らめて2人は離れる。何はともあれ修行は終了した。

 その日、シリウスは爆睡した。集中してよほど疲れたのだろう、夕食もとらずに寝てしまったのだ。
 スピカは、傷だらけの痛々しいシリウスの顔を優しくなでた。こんなにボロボロになって……。
「スピカちゃん、今日は泊まっていくのかい?」
「はい、親には言っているので……」
 外傷を治せるミラが来られないから私が付いていてあげなくちゃ。そんな気持ちだった。
「それにしても、最後の秘剣が守りの技だったなんて意外でした」
 一から六の秘剣を見てきた。どれも七星剣を変形させて派手にふるっていただけに、少し拍子抜けする感じである。
「秘剣の連番は威力の強弱ではなく、修得の難易度の順になっているのだよ」
 アルクトゥールス曰く、一の魚釣り星や二の螺旋昴は見た目が派手だが、修得は比較的容易なのだ。文綾の星――アンドロメダ星雲の和名であるこの技は、空気の流れを変えて敵の飛び道具を止めるものである。
 もともと、紫微垣の使命は「敵を仕留める」のではなく「ポラリスを守る」ことにある。守りの技を重視するのも理にかなっている。
(あーあ、こんなことなら私が天漢癒の顕の術を選べばよかった…)
 潤んだ目で細い眉毛をしかめた。紫微垣は戦いに身を置くため、どうしても怪我が多くなる。必然的に、天漢癒は潜より顕の出番が多い。あの時、ミラに譲ったことを悔やんでいる。それは、今すぐにシリウスを癒やせないから、というだけの理由ではない。
 そんなスピカの心を見透かすように、アルクトゥルスが言った。
「明後日の朝、シリウスをここから出立させる」
「え?」
「紫微垣の使命はポラリスを守ること、そして盗まれた場合は奪還することだ」
「じゃあ……シリウスは紫微垣に?」
 スピカはうれしそうに微笑んだ。
「いや、正式に紫微垣になるにはまだ最後の修行があるのだが、今はそれをやっている時間がない」
 地震が増えている。このままにしていたら取り返しのつかない大災害が起こるだろう。
「明日はこやつの体を回復させ、次の日に出立させる」
 やったねシリウス、がんばろうね。そう思いながら、スピカはシリウスの顔をなでた。
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