Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
出立
「シリウスー! 大丈夫なの!?」
翌日、ミラがやってきた。シリウスの顔にできた傷を見てからの第一声だった。
「たいしたことないさ」
「うわ、痛そう……すぐ治してあげる」
ミラは金の腕輪をはめ、シリウスの顔に触れた。瞬く間に傷が癒えていく。その様子を見ていたスピカは切ない表情をした。
今さら交換なんてできないよね……。
「そう言えば、明日はここを出るんだってね」
「ああ、東の都に行くよ」
行き先はアルクトゥルスから助言されたのだ。ポラリスを盗んだ者は北の町では顔が割れてしまう。そのため大都市である東の都か中つ都に行き、換金しようと目論む。
北の町と東の都は浅瀬道でつながっている。不良少年たちの足ではそう遠くに行けない。ベテルギウスとリゲルはおそらく東の都にいる。
地図を広げながらシリウスは現在地を確認した。星の大地は冬の星空――北の北斗七星と、南にあるぎょしゃ座、ふたご座、おうし座、オリオン座、おおいぬ座にあたる位置に町や都、村がある。
北斗七星が北の町、おうし座が東の都、オリオン座が中つ都、おおいぬ座が西の村となる。その中間に位置するふたご座の町とぎょしゃ座のエリアもあるが、ここでは触れない。
「支度はできたの、シリウス?」
スピカが尋ねた。
「まあ、七星剣と向こうで使う金と着替えくらいか」
「あなた、持ち物少ないのね」
スピカは口にしてから「しまった」と思った。まるでシリウスが貧しくて物を持っていないことを馬鹿にしているみたい――ましてや自分が言ったら嫌味にしか聞こえない、嫌われたかも……。
しかしシリウスは意に介さず
「まあ身軽でいいさ。俺の性分にも合うし」
と、しれっと答えた。
――よかった。
ほっと胸をなで下ろした。スピカは、昨日の特訓でシリウスへの自分の想いを認めてしまった。どうにもやりにくい。
「ところで、お前らどうするんだ? ついて来るか?」
「え?」
きょとんとするミラとスピカ。
「天漢癒を使えるお前らがいると助かるんだ…と言っても、危ない旅だから無理強いはしないぜ」
ミラはさっと手を挙げる。
「私行く! シリウスが一緒ならお母さんも反対しないし!」
何より力になりたい! とストレートに伝えてきた。
(どうしよう…親が許してくれるかな?)
するとシリウスがスピカの心の声を見透かしたように言った。
「スピカは親に相談した方がいいだろう。明日の朝にでも返事くれ。その後出発する」
その夜、スピカは自室のベッドの布団にくるまり、母親に打ち明けようか考えていた。もう9時を過ぎている。あと1時間でいつもの寝る時間なのに、まだ言えなかった。
(お母さんもだけど、使用人の人たちが何て言うか……)
使用人全員が、スピカが修行場に行くことを反対している。場所が場所なだけに危険でもあり、ましてや貧民街出身の男がいる。賛成する要素がない。
そうこうしていると、ドアをノックする音がした。ドキッとしながら「はい」と答える。
「スピカ、私だ。父さんだ」
「お父さん!?」
町を治めている父親は、いつも仕事で帰りが遅い。いつも11時くらいの帰宅で、遅ければ午前様になる。
ドアを開けて入ってきた父親はスピカの近くに寄り、娘の髪をなでた。
「聞いたぞ、最近は男の子に夢中のようじゃないか」
冷やかすような笑顔で言う父親。幼いころはよく遊んでもらったけど、15歳になるとそれもなくなってくる。ずいぶん久しぶりに父と2人で話すような……。
「ごめんなさい、心配かけて」
きっと不良少年と一緒にいることに怒っているのよね……。そう思っていると、意外な言葉が父から出てきた。
「言ってごらん」
「え?」
「やりたいことがあるけど、親に話したら反対されそうで悩んでいるという顔だな。とりあえず言ってごらん」
思春期に入り、娘と接する時間が少なくなったのに、この人は何でも見透かしているみたい。スピカは話した。元同級生が紫微垣になろうとしていること、重要な使命を帯びて出立しようとしていること、天漢癒の秘術が使える自分も行きたいこと……。
「スピカはシリウス君に付いていきたいのかい?」
「でも、行っちゃいけないよね?」
「できるできないは聞いてないよ。どうしたいんだい?」
父親に促され、スピカは口を開いた。
「私、行きたい。シリウスを助けたい」
それを聞いて父親は微笑んだ。
「じゃあ行っておいで」
「いいの?」
危険だし、貧民街の男の子と一緒だし、反対されると思ったのに……。
「あのアルクトゥルスが後継者として考えているんだ。大丈夫だろう」
「お父さん、アルクトゥルスさんを知っているの?」
「実は、彼は古い友人だよ。彼が認めた人物なら大丈夫。気をつけて行っておいで」
次の日の朝、スピカは旅の荷物を持って修行場に来た。
「シリウス。私もついていくわ」
「ありがとう。じゃあ出発だ」
午前10時。シリウス、ミラ、スピカの3人が、貪狼の祠がある紫微垣の修行場から南に向けて出発した。
翌日、ミラがやってきた。シリウスの顔にできた傷を見てからの第一声だった。
「たいしたことないさ」
「うわ、痛そう……すぐ治してあげる」
ミラは金の腕輪をはめ、シリウスの顔に触れた。瞬く間に傷が癒えていく。その様子を見ていたスピカは切ない表情をした。
今さら交換なんてできないよね……。
「そう言えば、明日はここを出るんだってね」
「ああ、東の都に行くよ」
行き先はアルクトゥルスから助言されたのだ。ポラリスを盗んだ者は北の町では顔が割れてしまう。そのため大都市である東の都か中つ都に行き、換金しようと目論む。
北の町と東の都は浅瀬道でつながっている。不良少年たちの足ではそう遠くに行けない。ベテルギウスとリゲルはおそらく東の都にいる。
地図を広げながらシリウスは現在地を確認した。星の大地は冬の星空――北の北斗七星と、南にあるぎょしゃ座、ふたご座、おうし座、オリオン座、おおいぬ座にあたる位置に町や都、村がある。
北斗七星が北の町、おうし座が東の都、オリオン座が中つ都、おおいぬ座が西の村となる。その中間に位置するふたご座の町とぎょしゃ座のエリアもあるが、ここでは触れない。
「支度はできたの、シリウス?」
スピカが尋ねた。
「まあ、七星剣と向こうで使う金と着替えくらいか」
「あなた、持ち物少ないのね」
スピカは口にしてから「しまった」と思った。まるでシリウスが貧しくて物を持っていないことを馬鹿にしているみたい――ましてや自分が言ったら嫌味にしか聞こえない、嫌われたかも……。
しかしシリウスは意に介さず
「まあ身軽でいいさ。俺の性分にも合うし」
と、しれっと答えた。
――よかった。
ほっと胸をなで下ろした。スピカは、昨日の特訓でシリウスへの自分の想いを認めてしまった。どうにもやりにくい。
「ところで、お前らどうするんだ? ついて来るか?」
「え?」
きょとんとするミラとスピカ。
「天漢癒を使えるお前らがいると助かるんだ…と言っても、危ない旅だから無理強いはしないぜ」
ミラはさっと手を挙げる。
「私行く! シリウスが一緒ならお母さんも反対しないし!」
何より力になりたい! とストレートに伝えてきた。
(どうしよう…親が許してくれるかな?)
するとシリウスがスピカの心の声を見透かしたように言った。
「スピカは親に相談した方がいいだろう。明日の朝にでも返事くれ。その後出発する」
その夜、スピカは自室のベッドの布団にくるまり、母親に打ち明けようか考えていた。もう9時を過ぎている。あと1時間でいつもの寝る時間なのに、まだ言えなかった。
(お母さんもだけど、使用人の人たちが何て言うか……)
使用人全員が、スピカが修行場に行くことを反対している。場所が場所なだけに危険でもあり、ましてや貧民街出身の男がいる。賛成する要素がない。
そうこうしていると、ドアをノックする音がした。ドキッとしながら「はい」と答える。
「スピカ、私だ。父さんだ」
「お父さん!?」
町を治めている父親は、いつも仕事で帰りが遅い。いつも11時くらいの帰宅で、遅ければ午前様になる。
ドアを開けて入ってきた父親はスピカの近くに寄り、娘の髪をなでた。
「聞いたぞ、最近は男の子に夢中のようじゃないか」
冷やかすような笑顔で言う父親。幼いころはよく遊んでもらったけど、15歳になるとそれもなくなってくる。ずいぶん久しぶりに父と2人で話すような……。
「ごめんなさい、心配かけて」
きっと不良少年と一緒にいることに怒っているのよね……。そう思っていると、意外な言葉が父から出てきた。
「言ってごらん」
「え?」
「やりたいことがあるけど、親に話したら反対されそうで悩んでいるという顔だな。とりあえず言ってごらん」
思春期に入り、娘と接する時間が少なくなったのに、この人は何でも見透かしているみたい。スピカは話した。元同級生が紫微垣になろうとしていること、重要な使命を帯びて出立しようとしていること、天漢癒の秘術が使える自分も行きたいこと……。
「スピカはシリウス君に付いていきたいのかい?」
「でも、行っちゃいけないよね?」
「できるできないは聞いてないよ。どうしたいんだい?」
父親に促され、スピカは口を開いた。
「私、行きたい。シリウスを助けたい」
それを聞いて父親は微笑んだ。
「じゃあ行っておいで」
「いいの?」
危険だし、貧民街の男の子と一緒だし、反対されると思ったのに……。
「あのアルクトゥルスが後継者として考えているんだ。大丈夫だろう」
「お父さん、アルクトゥルスさんを知っているの?」
「実は、彼は古い友人だよ。彼が認めた人物なら大丈夫。気をつけて行っておいで」
次の日の朝、スピカは旅の荷物を持って修行場に来た。
「シリウス。私もついていくわ」
「ありがとう。じゃあ出発だ」
午前10時。シリウス、ミラ、スピカの3人が、貪狼の祠がある紫微垣の修行場から南に向けて出発した。