Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

宿屋での葛藤

「うわあ、けっこうひどいじゃん……」
 宿屋のベッドで上半身を脱いだシリウスの体を見て、ミラは呟いた。
 ベテルギウスと戦った後、近くの宿屋に泊まることにした。異変は前金を払っているときに起こった。シリウスが体の痛みを訴えてきたのだ。
 客室に通され、すぐにシリウスは上の服を脱ぐ。すると、肋骨のあたり、右の二の腕と左の肩が腫れ上がっている。良くて打撲、悪ければ骨折しているようだ。
「ベテルギウスの仕業ね……」
 スピカは、かつての同級生を恨めしそうに呟いた。シリウスを傷つけるなんて……。
(あいつ、いつの間に……)
 当のシリウス自身は怒りというより、ベテルギウスの剣技に感服していた。互角に剣を切り結んでいると思った。が、ベテルギウスはシリウスが気付かないうちに、胸や肩、腕に打撃を加えていたのだ。
 やはり、純粋な剣術でやり合ったら勝てない……。連れ帰るのは一筋縄ではいかないようだな。
「シリウス、いい?」
 ミラは天漢癒の腕輪をはめてシリウスの腕に触った。みるみるうちに腫れがひいていく。それから肩を癒やし、最後に肋骨の辺りを癒やし始めた。
「ここが一番痛いな」
「あばら折れているかもね」
 物騒なことをしれっと言うミラ。天漢癒の腕輪があるから軽口が叩けるのだろう。本来なら全治2カ月はかかる見込みだ。
「おい、手を動かすな。くすぐったい」
「あれ、そういえばここ苦手だったっけ」
 にやにやしながら指を動かすミラ。シリウスは「ぎゃっ」と悶絶するように顔をひきつらせる。
 スピカはその様子をやや不服そうに見ていた。
(……いいなあ、ミラ)
 やがて治癒が終わる。
「さて、今日は移動や戦闘で疲れた。この宿は温泉があるみたいだから、みんなで入るか」
 シリウスの言葉にドキッとするスピカ。
「え? 混浴なのー?」
 ミラはケラケラと笑いながら尋ねる。
「んなわけあるか。男女別だ」
 呆れながらシリウスは自分の着替えを用意しようと鞄を開けた。するとスピカはすくっと立ち上がり、彼女の鞄の中を探って着替えを出すと
「先行くから」
 と、さっさと行ってしまった。何か顔が真っ赤で頬がふくれていたようだが……。
「どうしたんだ、あいつ?」
「さあ? あたしも入ってくるから、様子見てみるね」
 ミラも着替えを用意し、スピカを追いかけた。

 この宿屋は男女どちらの風呂も温泉が湧いている。しかも露天風呂つきだ。
 スピカは、露天風呂の岩場に腰掛けて足だけを湯につけていた。他に誰もいないのでタオルで隠しもせず、体をさらしている。
 ――何なの、このもやもやした気持ち……。
 ほてった顔を手でなぞりながら、スピカは自問自答する。シリウスが好きという自分の気持ちは分かっている。最近は、彼を見ているだけで心が温かくなる。だけど、天漢癒の術でミラが傷を癒やしたときに感じた感情は……。
 ――嫉妬…なのかな。
 そう考えていると、カラリと戸が開く音がする。ミラが入ってきたのだ。
「スピカ先輩、います?」
 ミラはかけ湯をして、そばにあったせっけんで体を洗い始める。
 スピカは、彼女の体を横目でまじまじと見た。スピカは顔もスタイルもいいという自負がある。腰は細く脚も美しく、胸だってけっこう大きい方だ。しかし、ミラは年下というのに胸が自分と同じくらい…むしろ彼女の方が若干大きい。発達段階だというのに、この先どうなってしまうのかしら。
 ――って私、何考えているのよ!
 体を湯に浸けると、恥ずかしそうに顔の下半分を潜らせる。
 やがて、体を洗い終わったミラが湯に浸かってきた。小柄ながらも、豊満な胸だけでなく、腕、腰、脚とすべてが美しかった。
「わあーあったまるー♪ 気持ちいいですね、先輩」
 にこにこ顔のミラ。人の気も知らないで……。
「先輩、どうかしたんですか?」
「う……」
 痛いところを突いてくる。脳天気な後輩に気付かれるとは……。
「シ、シリウスって脇弱いのね」
 当たり障りのない話題をふる。
「あー、付き合い長いですからね。背中もですよ、あの人くすぐったがりです。あと、料理上手だけど箸の握り方とか変で……」
 また私の知らないシリウスの話。もやもやが大きくなる。
「昔、一緒に書道習っていたのに一向に上達しなくて、『俺は解読不能の字を書くことに開眼した』って開き直ったりして……」
 スピカは突然、ザバッと立ち上がった。その顔は赤く染まっていたが、表情は憂いをたたえている。
「せ、先輩?」
「ごめん、先あがるね」
 そう言って出ていってしまった。
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