Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

スピカの苛立ち

 スピカは苛だっていた。朝起きたときから憂鬱で、朝食もあまり食べない。
「どうされましたお嬢様、お具合でもよくないのですか?」
 使用人が聞いてくる。スピカは北の町の名士の令嬢である。家が大きく、使用人も10人ほどいる。
「別に、大丈夫だから」
 若干無理に笑顔を作ると、支度をして学舎に行った。

 その日スピカは授業に身が入らなかった。それでも抜き打ちの小テストはクラスで唯一満点。運動の授業でも石投げを全て当てた。スピカは幼い頃から兄たちに石投げを教えてもらっていたため、コントロールが良い。
 しかし、放課後はさっさと帰ることにした。いつもなら友人とおしゃべりをして帰るが、今日は特に気分が乗らない。
(きっとあいつのせいだわ……)
 スピカはシリウスの顔を思い出した。昨日の会話は極めて不愉快だったのだ。つっけんどんで無愛想、口も悪くて嫌な男。ミラは何であんなのを助けようとしているのかしら。意味が分からない。
 イライラが治まらない。どうしようかな……。
「先輩っ」
 廊下でミラに呼び止められた。
「どうしたの? もう力にはなれないって言ったでしょう?」
 ミラには罪がないので丁寧な口調で話す。それでも苛立ちがにじみ出ていたのか、ミラが少し怯んでいる。しかし、ミラは強い意志の表情で言った。
「今日も一緒に来てくださいっ!」

 結局、スピカは紫微垣の修行場に来た。1人で行くのが怖いからって言われちゃしょうがない。私、何てお人好しなのかしら。
 修行場では、シリウスが妙なことをしていた。まるで剣術の型を練習しているようだ。右下に構え、左上に切り上げる。それをまた元の軌道を戻るかのように切り下げる。その繰り返しだ。
「何やっているのかしら?」
 岩の陰からのぞき見ていたミラとスピカは首をかしげた。
「あれも紫微垣の修行なんでしょうか?」
 ミラが呟いた途端、
「また来たのか」
 気付かれた。ばつが悪そうに2人の少女は姿を現す。
「あ? ミラ、またそいつを連れてきたのか」
 つっけんどんに言われ、スピカは売り言葉に買い言葉で言い返す。
「あんたがちゃんと修行しているか見に来たのよ。そしたら滑稽な動作やっちゃって、何しているのかしら?」
 肩をすくめるスピカ。彼女は基本的に優しい性格なのだが、シリウスに対してはけんか腰になる。初対面での印象が悪かったせいだろう。ついでにその日の苛立ちをすべてぶつけることにした。
「あなたは自分の立場が分かっているの? 盗みに加担して町全体を敵にまわして、幼なじみの女の子を心配させている愚か者よ」
 それを聞き、シリウスは黙った。
「何か言い返してみなさいよ」
 たたみ掛けるスピカ。しかし、シリウスはそっぽを向き
「まあ、それもそうだな……」
 とだけ呟き、修行を続けた。
(何よ、張り合いのない……)
「…七つあるんだよ」
「え?」
 ミラがきょとんとする。
「紫微垣の七星剣の技が七つあって、アルクトゥルスが『全部修得したら、ここを出ていい』ってさ」
「ちなみに今やっているのは?」
「一の秘剣、初歩の技だ。早くできるようになってあのじじいを見返してやる」
「あらあら、それじゃあここを抜けるのは何十年後かしら」
「先輩、言い過ぎですぅ」
 ミラが頬を膨らませる。この子、本当にシリウスのことが好きなのね。

 その翌日も、さらにその翌日もミラとスピカは来た。
 苦戦するシリウスだが、ミラが話しかけると何となく楽しそうである。あの2人、本当に仲がいいのね。きょうだいのようだが恋人同士にも見える。それでも「ここは危ないからあまり来るな」と言われているようだけど。
 少女たちはアルクトゥルスとも多少話すようになった。もう65五歳になるこの老人は、いつもニコニコしていて好々爺という感じだ。しかし、シリウスに修行を課すときはえげつない。言葉も「お前は雑念が多すぎる、人として未熟だ」だの「その程度でわしを見返せるのか?」と厳しい。他人事なのに時折シリウスに同情したくなる瞬間がある。
(あーあ、気の毒に……盗みしたばっかりにね。ご愁傷さま)
 それでも、シリウスは文句を言わない。途中で投げ出して逃げようとしないのだろうか? 不良タイプって、すぐ投げ出すやつが多い気がするのに。いろいろ疑問が浮かんでくる。

 そんなこんなで2週間たち……事故が起こった。
< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop