Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
天漢癒の秘法
ポラリスが盗まれて3週間になろうとしている。
北の町の南東にある都――東の都は、夜になってもにぎやかだ。特に繁華街は酒や色欲のにおいが充満する。
「ベテルギウス、どうする?」
「うるさい、リゲル!」
シリウスを裏切り、ポラリスを盗んだ2人の少年は東の都に潜んでいた。あの夜、北の町を脱出してここに来たはいいが、そろそろ所持金が尽きる。
ポラリスを質屋に入れて大金を手に入れればよいのだが、売ってしまえばそれきりだ。計画性のない犯罪だったことが災いしたのだ。
「やっぱり盗みなんてしない方がよかったんじゃ……」
気弱そうに言うリゲルをにらみ、ベテルギウスは怒鳴った。
「今さらどうしようもないだろ! つべこべ言うな!!」
翌朝。シリウスは1人で朝の鍛錬をしていた。そのメニューは走り込み50本、岩かつぎ10往復、腕立て伏せ100回だ。
もともと身体能力が高いため、慣れてしまえばさほど苦にはならない。
「さて、そろそろ朝飯の支度だな」
面倒に思う食事の支度だが、ミラたちがいるので何か食べさせなくてはならない。無愛想なくせに、妙に情が厚い性分なのである。
庵に戻り、すぐに野菜を刻んでみそ汁を作る。昨日釣った鮭をさばいて焼く。米はそろそろ炊けたころと、釜をのぞく。
(何か、主夫みてえだ……)
何やってんだろ、俺…。悪友に手を貸して裏切られて、町の人間からは糾弾されて、幼なじみには心配かけて、挙げ句あのじじいのしごきに遭っている。スピカの言うとおり、本当に馬鹿かもしれない。
それにしてもあの瞬間――魚釣り星が使えた時、技を使えたことより2人を助けられたことが純粋にうれしかった。あんな気分、初めてだった。
ちなみに魚釣り星はさそり座の和名が元である。七星剣を鞭のように変形させ、釣り竿を一本釣りで振る要領で剣閃を繰り出す。さそり座の星図も釣り竿を連想する形であり、そこから着想したらしい。
とりあえず、あと六つの秘剣をマスターすること。それがシリウスの目標だった。
「わあ、おいしそう!」
ミラは朝食を前にして目を輝かせた。ごはんに野菜たっぷりのみそ汁、ふっくらと焼き上がった鮭。においも食欲をそそる。
「まあ、やるじゃないの」
スピカは驚いている。昨夜の夕食といい、シリウスは料理が上手なのは本当のようだ。食事が終わると、アルクトゥルスがスピカの足を看た。
「このくらいの捻挫なら、いい直し方がある」
そう言うと、この老人は金の腕輪を取り出して手首にはめ、手を捻挫の箇所にあてた。すると手が光りはじめ、足の腫れが引いていく。
「え…これは?」
全員が驚く。
「これは紫微垣の秘術、天漢癒というものだ」
「漢」とは天の川のことで、さしずめ天の川の力を借りた治癒の術というところか。紫微垣は戦いの中で負傷することが多いため、この術を使うという。
「腕輪は二つある。金は“顕”で体の外や皮膚、筋肉、骨に現れる傷、つまり外傷や骨折、肉離れなどに効く」
さらにもう一つの腕輪――銀の腕輪を取り出した。
「こちらの銀は“潜”で体の内部や精神、つまり器官系や神経の病気に効く」
「それ、先に言ってくれよ」
シリウスが文句を言った。これまでの修行で生傷が絶えないのだ。手を洗うときも痛いくらいである。使っていればそんな苦労もなかったのに。
「お前はお灸をすえる意味で教えなかったのだ」
「へえ、そうですか」
「それに、これは自分で自分に使うより、他者に使ってもらう方が回復は早い。そこでだ…」
アルクトゥルスはミラとスピカに提案した。
「それぞれこの腕輪を付けて、こやつを助けてやってくれ」
「はあ!?」
シリウスとスピカが叫んだ。
「こやつは今後、紫微垣になって死ぬまで戦い続けることになる。下手をすれば手足を失ったり目玉をえぐられたりすることがあるかもしれない。そばにいる者が回復を手助けしてやった方がよいのだ」
物騒なことを笑顔で言いやがるな、このじじい。笑顔の仮面をかぶった鬼じゃないのか?
「あ、私やります!」
ミラが挙手した。
「私、“顕”がいいな。出番が多そうだし」
シリウスのためにと思っているところがいじらしい。
「ミラが二つとももらったら?」
スピカは面倒事に巻き込まれるのが嫌だと顔に出ていた。
「それがな、紫微垣でない者は同時に装備できないのだ。ちなみに途中で属性を交換できない」
「スピカ先輩、“潜”をお願いできます? どうせ出番は私の方が多いし、いいじゃないですか」
ミラの無邪気な笑顔に押し切られ、しぶしぶ引き受けることにした。
北の町の南東にある都――東の都は、夜になってもにぎやかだ。特に繁華街は酒や色欲のにおいが充満する。
「ベテルギウス、どうする?」
「うるさい、リゲル!」
シリウスを裏切り、ポラリスを盗んだ2人の少年は東の都に潜んでいた。あの夜、北の町を脱出してここに来たはいいが、そろそろ所持金が尽きる。
ポラリスを質屋に入れて大金を手に入れればよいのだが、売ってしまえばそれきりだ。計画性のない犯罪だったことが災いしたのだ。
「やっぱり盗みなんてしない方がよかったんじゃ……」
気弱そうに言うリゲルをにらみ、ベテルギウスは怒鳴った。
「今さらどうしようもないだろ! つべこべ言うな!!」
翌朝。シリウスは1人で朝の鍛錬をしていた。そのメニューは走り込み50本、岩かつぎ10往復、腕立て伏せ100回だ。
もともと身体能力が高いため、慣れてしまえばさほど苦にはならない。
「さて、そろそろ朝飯の支度だな」
面倒に思う食事の支度だが、ミラたちがいるので何か食べさせなくてはならない。無愛想なくせに、妙に情が厚い性分なのである。
庵に戻り、すぐに野菜を刻んでみそ汁を作る。昨日釣った鮭をさばいて焼く。米はそろそろ炊けたころと、釜をのぞく。
(何か、主夫みてえだ……)
何やってんだろ、俺…。悪友に手を貸して裏切られて、町の人間からは糾弾されて、幼なじみには心配かけて、挙げ句あのじじいのしごきに遭っている。スピカの言うとおり、本当に馬鹿かもしれない。
それにしてもあの瞬間――魚釣り星が使えた時、技を使えたことより2人を助けられたことが純粋にうれしかった。あんな気分、初めてだった。
ちなみに魚釣り星はさそり座の和名が元である。七星剣を鞭のように変形させ、釣り竿を一本釣りで振る要領で剣閃を繰り出す。さそり座の星図も釣り竿を連想する形であり、そこから着想したらしい。
とりあえず、あと六つの秘剣をマスターすること。それがシリウスの目標だった。
「わあ、おいしそう!」
ミラは朝食を前にして目を輝かせた。ごはんに野菜たっぷりのみそ汁、ふっくらと焼き上がった鮭。においも食欲をそそる。
「まあ、やるじゃないの」
スピカは驚いている。昨夜の夕食といい、シリウスは料理が上手なのは本当のようだ。食事が終わると、アルクトゥルスがスピカの足を看た。
「このくらいの捻挫なら、いい直し方がある」
そう言うと、この老人は金の腕輪を取り出して手首にはめ、手を捻挫の箇所にあてた。すると手が光りはじめ、足の腫れが引いていく。
「え…これは?」
全員が驚く。
「これは紫微垣の秘術、天漢癒というものだ」
「漢」とは天の川のことで、さしずめ天の川の力を借りた治癒の術というところか。紫微垣は戦いの中で負傷することが多いため、この術を使うという。
「腕輪は二つある。金は“顕”で体の外や皮膚、筋肉、骨に現れる傷、つまり外傷や骨折、肉離れなどに効く」
さらにもう一つの腕輪――銀の腕輪を取り出した。
「こちらの銀は“潜”で体の内部や精神、つまり器官系や神経の病気に効く」
「それ、先に言ってくれよ」
シリウスが文句を言った。これまでの修行で生傷が絶えないのだ。手を洗うときも痛いくらいである。使っていればそんな苦労もなかったのに。
「お前はお灸をすえる意味で教えなかったのだ」
「へえ、そうですか」
「それに、これは自分で自分に使うより、他者に使ってもらう方が回復は早い。そこでだ…」
アルクトゥルスはミラとスピカに提案した。
「それぞれこの腕輪を付けて、こやつを助けてやってくれ」
「はあ!?」
シリウスとスピカが叫んだ。
「こやつは今後、紫微垣になって死ぬまで戦い続けることになる。下手をすれば手足を失ったり目玉をえぐられたりすることがあるかもしれない。そばにいる者が回復を手助けしてやった方がよいのだ」
物騒なことを笑顔で言いやがるな、このじじい。笑顔の仮面をかぶった鬼じゃないのか?
「あ、私やります!」
ミラが挙手した。
「私、“顕”がいいな。出番が多そうだし」
シリウスのためにと思っているところがいじらしい。
「ミラが二つとももらったら?」
スピカは面倒事に巻き込まれるのが嫌だと顔に出ていた。
「それがな、紫微垣でない者は同時に装備できないのだ。ちなみに途中で属性を交換できない」
「スピカ先輩、“潜”をお願いできます? どうせ出番は私の方が多いし、いいじゃないですか」
ミラの無邪気な笑顔に押し切られ、しぶしぶ引き受けることにした。